第53.5話
お母さんの声を聞いて私たちがキッチンにたどり着くとお母さんが床にすわりこんでしまっていた。
「あいつが、あいつが出たの」
お母さんはさっきからそんな言葉を繰り返している。しかし、流石にそれだけじゃあ何が起こったのかわからずに、ここで起こった事を聞いてみることにした。
「なにがあったの?」
「あいつが、あの黒くてカサカサしてる奴が出たの!ここに!」
普段は落ち着いているお母さんが、子どもの私たちに縋り寄ってくる。凄い珍しい光景に驚きながらもお母さんが言っていることの意味を理解した。
「あっ、ゴキブリだ!」
私がまずお母さんを落ち着かせようとした時にその声はキッチンに響いた。
「どこ?どこ、どこどこどこどこ?!」
その結心の声にまた混乱し始めるお母さん。たまに出るとお父さんが発見し退治する事が多かったのだが、今回はお母さんが発見し、さらにお父さんもいない。
私たちは絶体絶命の状態なのだ。
しかし、そうも言ってられない。行動しないとあいつはずっとここに居続けるのだ。1匹見つけたらかなりの数がいるとは聞くが、その1匹を倒せないやつに、これから先はないに等しい。
「ゆいはあいつをみはってて、わたしはすぷれーとってくる!」
「わかった、まかせて!」
私は結心の元気な返事を聞きながら、殺虫剤を取りに行く。お父さんが前使っていたのがあるはずだと、私は記憶を頼りに部屋を探す。
そして、探す事数分。殺虫剤はちゃんとわたしの記憶通りの場所にあった。流石私の記憶力。少し、自慢げな気持ちに浸っているとキッチンで結心の声がする。
「おねえちゃんはやく!ゴキブリいどうしてる!」
「結心、不必要にその名前を呼ばないで〜」
お母さんの悲痛な叫びもセットだったため、余計に焦らされる。
「ゆい、あいつどこいった?」
「ここ!」
私の声に結心が冷蔵庫の下を指差す。どうやら、そこにあいつはいるようだ。私は持ってきた殺虫剤を構える。
喰らえ!マイナス198℃の力!
私はそう心の中で叫びながら、殺虫剤の引き金を引いた。
プシューーーー
「あっ!!でてきた!」
殺虫剤に耐えられなくなったのか冷蔵庫の下から出てくる。私はそれを見逃さずに殺虫剤で角に追い込んで追い打ちをかける。
プシューーーーーーーーー
あいつ周りがどんどん白くなっていって、最終的にはあいつも動かなくなった。
「やったよ!」
角で動かなくなっているあいつを割り箸で掴んでチラシの上に載せる。そして、包んでからゴミ箱に捨てた。
「「おかあさん!あいつやっつけたよ!」」
結心と一緒にお母さんに報告する。すると、お母さんは私たちにすごく感謝してくれたのだった。
「本当にありがとう!結笑、結心」
〜黒くてカサカサしたやつ 1時間〜
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます