第19.5話


 そして、片付けたスペースにダンポールを持ってきて、陽気にドラムロールを口ずさんだ。


「ダララララララララララッ、、ダン!」


 そう言ってお父さんが箱から出したのは、雛人形だった。


「どうだ、綺麗だろ。こっちが結笑ので、こっちが結心のだ」


 驚くべきことにちゃんと雛人形は2セットあったのだ。しかも、同じやつではなく、デザインが違うものである。


 流石に七段のやつではなく、お互いにお殿様とお姫様の2人のものだが、とても嬉しかった。


「ぱぱ、ありあと」

「ありあと」


 その言葉を聞いてお父さんは嬉しそうに頬をかいた。


「それは、お母さんにも言ってあげような。これはお父さんとお母さん、2人で選んで買ったものだからな」


 そういうことだったのか。2人が通帳を見ながら話をしていたのは、雛人形を買うためだったのだ。1つでもいいお値段がするものをそれぞれに買ってくれた両親に本当感謝しかない。


 お父さんは、雛人形を2つとも片付けて空けたスペースに飾る。それに私たちは、近づいていって自分の雛人形をじっと見つめる。


「きれえー」


 結心の方は言葉を失っているがとても嬉しそうだ。


「今年は、雛人形を飾るのが初めてだから2人とも飾ったが、来年からは順番に飾ると思うから、しっかり2つとも並んだ状態を目に焼き付けとけよ」


 なんと!

 それなら、ちゃんと2つ合わせて見ないといけないではないか!


 去年は確か、お母さんの手折り折り紙雛人形だったので、2セットの雛人形を見るなことが出来るのが今年限りと知れば、目に焼き付けるほかなかろう!


 そう思い、私たちが雛人形を見ていると、後ろからパシャパシャとシャッター音が止まらない。後ろだったらいいやと思っていたら、たまに前からの写真も撮られる。


 それ、雛人形映ってないけどいいのかな?

 なんてことを考えていると、お父さんからリクエストが来た。


「結笑、結心。ちょっとこっち見てもらってもいいか?50枚ぐらい写真撮るだけだから」


 お父さんや、それはちょっと、とは言わないんやで。なんて、考えなら過ごしていると時間が経つのははやかった。


「ただいまー」


 そう、お母さんが帰ってきたのだ。

 そこからは、言わずもがなだろう。撮影会にお母さんも加わり、お互いの写真討論会も始まり、当人たちは置いてけぼりだ。


 本当に好かれているのは嬉しいことだが、ここまでくると、心配になってくるのだった。

 

 それは、晩御飯を食べた後も続き私たちが寝る時も話し続けていた。


〜雛人形との出会い 1時間〜

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