第12話 真相

「ジェラルド様には3つの仕事があります」

 ナンシーが執務机の上に、ひとつ目の資料を置きながら話し始める。

「ひとつは王の代理者としての仕事、ふたつ目は宰相としての仕事、そして最後に公爵としての仕事です。前者ふたつは公務、そして後者は政務と分けられるでしょう。ウェイトとしては4対4対2……つまり仕事の多くは公務です。これからその公務について説明します」

「ハイ……」

 急に始まった講義に、私は情けない声で返事をした。

「よろしいですか。オーギュスト王国の執政には決められた順序があります。まず、国中の地方行政官からさまざまな報告があがってまいります。それを中央の行政官が取りまとめ宰相に、宰相は陛下に報告します。その報告を基に陛下が国の大きな指針──つまり方向性を示されます。そしてそれを宰相以下行政官に伝え、実働の長として宰相が行政官とともにその指針に基づいた政策案を検討します。もちろん、中には具体的な内容について陛下から指示が下りることもありますが、基本的に詳細は宰相が行政官に指示を出して案を策定することになります」ナンシーは一度言葉を切った。「ここまではよろしいですか?」

 ええと、行政官→宰相→王の順に報告があげられ、王→宰相→行政官の流れで政策案の策定指示が降りてくる、ということか。

 私は肯定の返事をする。ナンシーが続きを話す。

「策定した政策案は宰相が取りまとめ、重要な案件である場合は、先ほどご出席いただいた諮問機関、枢密院ノインラートに諮ります。そしてそこで定まった案を、宰相が陛下に提出するのです」

 なるほど、今度は策定した案を、行政官→宰相→枢密院ノインラート→王の順で上げていくわけだ。

「そして陛下は、それらの案を議会にかけます。議会での承認を得ると、陛下は宰相以下行政官と共に、それを執行します」

 つまり、議会の承認を経て決定した政策案は、王→宰相→行政官と指示が降りて実施されていく、という仕組み。

「以上が基本的な流れです。なお、議会での承認が必要なのは、法案、予算案──臨時予算措置も含みます、死刑を伴う刑罰の実施、戦に関する重要案件、その他重要なものです。議会にかけるには、必ず枢密院ノインラートに諮る必要があります」

 ふんふん、と頷いた。手順はどこか私のいた世界と似ている。

「この中で宰相としての仕事は、行政官からの報告を陛下へ伝えること、陛下がお示しされた方針に基づく政策の立案、それを枢密院ノインラートに諮り陛下に献策、議会での陛下のサポート、決定した政策の執行──以上になります。しかし、」ナンシーが語気を強める。「ジェラルド様は宰相でありながら王の代理者でもあられます。そしてこの中で王の仕事は、報告を受け、方針を示すこと。そして政策案を承認、もしくは重要な政策案であれば議会にかけ承認を得ることです」そしてワンテンポ置いて、ナンシーはゆっくりと言った。「今挙げた宰相の仕事と王の仕事、そのどちらもがジェラルド様の公務となります」

 ちょっと待って、脳みそが追いつかない。

 つまり──ジェラルドの仕事は、報告を受けて指針を立て、政策案を作成し、それを枢密院、場合によっては議会にもかけ、承認を得られたら執行していくこと。つまり、つまり──。

……なのか?」

 私はついに、真相を口に出した。

「はい、その通りでございます」

 ジェラルドは、王の代理者や宰相といったこの国の顔として必要不可欠な存在なだけではなかった。正真正銘、この国にいなければ、国がまわらない人間。

 つまり、このオーギュスト王国を、ジェラルドはたった一人で切り盛りしているのだ。

 いやそんな居酒屋みたいな!……ってノリツッコミしてる場合か!

「そしてこれら全てが、ジェラルド様の元で働く行政官からの報告書です」

 ナンシーが書類の山を見渡して言う。 

 私も改めて白い紙の山を見渡した。気が、遠くなる。

 それなのに、ナンシーはさらに追い討ちをかける言葉を口にした。

「これからジェラルド様には、これらの内容を全て把握し、その上で判断する力を身につけていただかなくてはいけません」

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