第10話 閣下、お仕事の時間です!
タスクが自分の番はまだかまだかと、後方に列をなしている。
それを擬人化したらこうなるのか。
駄々をこねる私を、ナンシーは無理やり執務室に連行した。
外観を見ていないので形容し難いが、オーギュスト王国の首都グレアムズに建てられたここグレアムズ王城は、俯瞰すると〝日〟の字を横に倒した形に見える。辺の長い方、東西に伸びる南北二つの棟が部屋が並ぶ建物になっており、辺の短い方は南北を結ぶ通路だ。南北の棟は、それぞれ正面に当たる南棟が主に公務や政務に、北棟が王や城で公務を行う貴族たちの居室として使用されている。つまり、ジェラルドの私室ももちろん、北棟に位置していることになる。その北棟は4階、南棟は3階建てで、南北の棟にはどちらも東西と中央にそれぞれ3つの塔がくっついている。これが5階程度まであるのだが、北棟の中央の塔だけは7階程度の高さになっており、そこに王の居室があるのだ。ちなみに、
その渡り廊下は天候が悪い時にでも使用できるように屋根はついているが、壁はないため、グレアムズ城の城壁と遠くに広がる青々とした山脈が見られる。その山脈に太陽がかかりそうなのを見てとって、ああもう夕方なのだな、と思った。
こうやって日常とはかけ離れた世界にいると、夢を見ている気分になる。少し前に二十数階建ての庁舎で仕事をしていたのが、遠い昔に感じられる。ヨーロッパの城に観光にきたみたいだ。
そう、もう仕事なんてしなくていい。自由で快適な異世界旅行。
──というわけにはいかない。
マジでか。
渡り廊下を過ぎ、南棟の階をひとつ登り、最上階である3階に着くと、役人と思われる十数人が、大量の書類を持ってひとつの扉の前に押し寄せていた。両脇に控える衛兵に詰め寄っている。「閣下はおられぬのか?」「いつお戻りになる?」「至急の案件が」
「ナンシー、」
私は青い顔をして、ナンシーに声をかけた。しかし、快い返事は返ってこない。
「……わかっておりますが、どうしようもありません。申し上げた通り、閣下がいなければこの国は立ち行かないのです」
も〜どんな国だよ!ジェラルド一人に押し付けすぎじゃない?
「あの様子では正面から入ることはできませんね。裏手に回りましょう」
そう言って少し先の小さな扉へ向かう。両脇に控える衛兵が会釈し、扉を開けた。ナンシーに続いて部屋の中に入り──そして、唖然とした。
「こちらが、ジェラルド様の執務室です」
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