第7話 試練は往々にして来るべくして来る。
──キタ。
私は心の中で呟いた。ついに私がジェラルドとして初めて発言しなければいけない時が来たのだ。
左手のバルド卿が机を揺らしながら座る。そして、皆が一斉にこちらを見る。ジェラルドの言葉を待っている。
慌てるな。私は自分に言い聞かせた。等間隔に並んだ彼らの顔をゆっくりと見回す。
左から、大男のバルド卿、卑屈な老人ナッサウ卿、長い金髪に碧眼のリーぺ卿、七三メガネのロイス卿、モジャ髭の小男モース卿、そして柔和な白髭紳士モンデリアル卿。……我ながらよく名前を覚えられたなと思う。ナンシーからは一度しか言われていない。おそらく、私ではなく本体の優秀な頭脳のおかげなのだろう。
ここにいる6人の侯爵は、それぞれ、製造業、医学会、流通業、金融業、不動産業、政界・教育界・法曹界に強いコネクションがある面倒な貴族たちばかりだ。特に今回の議題を出したバルド卿。彼は軍人でもあるらしい。彼の家が仕切る製造業界にどのような利益があって軍人になったのか──予想では軍で使用する兵器の受注といった類のものだろうが──そしてボバナグロ帝国という大きな国と軍事協定を促す理由は何なのか──これも兵器の大量生産と考えるのが筋か──それを知る方法はここにはない。
心の中で大きく息を吸って、表面上はなんでもないといったように一言、述べる。
「いま判断するには情報が足りない」
「……わかりました。ではこの件は保留で。バルド卿もよろしいですかな」
「承知した」
ほっと胸を撫で下ろす。まあ、ナンシーの言いつけを守るとしたらこの方法以外にはないので、最初から答えは決まっていたのだが。私の一言一行が、この場にいる人間とこの国に住む人たちの未来に大きく影響すると思うと、寿命が縮まる思いがする。
「では、本日の議題に参りましょう」
モンデリアル卿が会議を進める。
そうだ、これで終わりではない。これからが本題なのだ。私は身を改めた。
「本日の議題は2件です。お手元の資料を」
皆が一斉に資料を手に取る。私もそれに倣って資料を一瞥した。そして「え」とつぶやきかける。
──ノンフォーク公爵ジェラルド・アラン・ハワード
2件の議題の最後に、それぞれ自分の名が記されていた。紛れもない、さっき知らされたばかりの自分の名だ。
これって──つまり……どういうこと?
心の中で首を傾げる。そして、じわじわとその意味を、この先に起こるであろう事態を理解し始めた。
……待って、今度は本当にダメな気がする。
「では、閣下からご説明をお願いします」
モンデリアル卿がにっこりと微笑み、私にボールを投げる。
ほら、やっぱり。
冷や汗が、流れた。
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