第6話 断りの理由。
花火大会はお祭り以上に大賑わいで警察が出てきて誘導までしてくれている。
暑いのに制服姿の警察官さん達には感謝しかない。
会場に着いて即はぐれかけて小次郎から「まだ早い」と言われてしまったがはぐれそうになった。
花火前に4人で買って持ち込んだハンバーガーのセットを食べる。
今回も小夏とシェアをして食欲は程よく満たされた。
花火はなんでこんなにワクワクするのだろう?
俺は横に居る小夏に「楽しみだね」と言うと小夏も笑顔で「うん」と返す。
「また同じ顔で笑ってら」
「本当、お似合いだよ?」
ここで俺は少しだけ母さんの言葉を思い出して「まあね。でも俺はまだまだ子供だから頑張らないとね」と言ってみる事にした。
「おお!?」
「まあねだってよ小夏!」
「冬音くん…」
そこから盛り上がった雑談も花火が打ち上がると止まってしまい俺と小夏は花火をじっと見ていた。
途中で小次郎が「花火バックで撮ってやるよ!」と言ってくれて俺も「小夏さん、撮ってもらおう」と誘う。
小夏も嬉しそうに「うん」と言ってカメラに向かって微笑む。
この写真は会心の一枚らしく、撮った小次郎と晴子が真っ赤になっていた。
確かに小次郎から届いた写真はカップルにしか見えなかった。
花火終盤、示し合わせたように小次郎は晴子とトイレに消えて行く。
ここは俺から「一応言っておくけど終わっても合流出来なかったら別々に帰ろう」と言うと小次郎は「おう、なるべくすぐ戻ってくるぜ」と言う。
「ごめんね小夏、もしはぐれたら帰りは冬音君に送って貰ってね」
「わかってる。晴子こそ小次郎君に頼むんだよ?」
本当にトイレに行きたいのかいそいそとトイレに消えて行く小次郎と晴子。
姿が見えなくなったところで小夏が「また雰囲気作り?」と聞いてくるので、俺は呆れ顔で「だってさ、小次郎は勝負に出るってよ」と言う。
「えぇ!?」
「え?えぇ?って…ダメなの?」
だとしたら小次郎が浮かばれない。
ダメだと知っていたら行かせなかった。
だが小夏の回答は「ダメっていうかまだ数回しか遊んでないのに?慎重になるべきなのに…」というもので俺も「確かに、言えてる」と相槌を打った。
ここで俺の中に気になる言葉が出ていた。
「慎重…、うちの父さんみたいだ。うちの父さんも慎重になり過ぎる人だったんだって、小夏さんも父さんみたいだったら急に言われたら嫌だったね」
「慎重…。そうだね」
そう、急いだっていい事は無い。
だから俺は「夏が終わっても冬まで一緒に遊んだりしようよ。それでもっと知ろうよ」と言う。そう、慎重に知り合って良いと思えたら付き合えばいい。
俺が「それでさ…」と言った所で小夏は「ダメ…。ダメだよ冬音くん」と言う。
俺は困り顔で「今すぐじゃないよ。慎重に…」と慎重になって良く知ろうと提案しようとした時、小夏はボロボロと泣いていた。
「小夏さん?ごめん!悲しませる事言ってた!?」
俺が慌てて謝ると小夏は「違う…違うよ」と言って泣いた後で「私だって冬音くんが好きだよ。付き合えたらどれだけ素晴らしいか、きっと退屈なんてなくなる。毎日が幸せになる」と続ける。
泣いている小夏の涙より俺の耳には小夏の言った「冬音くんが好きだよ」が残っていた。
「小夏さん…?俺を好き?」
「好きだよ。食べ物の好みも一緒、困るところも喜ぶ所も一緒、空が好き、そんな素敵な人にはもう巡り会えないよ」
わからなかった。
わからなかった俺は思ったまま「ならなんで?」と聞くと、花火どころではない俺の耳にはとんでもない言葉が聞こえてきた。
「私が幽霊だから」
俺は思わぬ返事に「は?」と言ってしまう。
冗談にしてもタチが悪い。だが小夏の泣き顔を見ていると冗談に聞こえない。
「私は幽霊だから付き合えないの。誰とも付き合えない」
「でも食べたり笑ったり…」
今も一緒にハンバーガーを食べた。
さっき小次郎と晴子に撮って貰った写真は笑顔だった。
写真も撮れている。
困惑する俺に「うん。私にもよくわからない」と言った小夏は言葉を続ける。
「でもね、私の本当の名前は日向 小夏」
何を言ったか分からず「日向?」と聞き返すと小夏は「うん。パパの名前は日向 豊」と言った。
日向 豊は俺の父さんの名前。
それに小夏の苗字が、青海ではなく日向?
何を言われたか理解できない中で小夏は続ける。
「私のママの名前は日向 明子。旧姓は青海 明子」
明子…俺の母は日向 桜子…、旧姓青梅 桜子。母はよく梅と桜のめでたい名前、松が揃えば赤タンだと笑い話にしていたという。
母は別で父は同じ名前?
混乱する俺に小夏は「パパは不倫なんてしてないよ。多分ここは別の世界。私が生きていた世界と違う場所」と言った。
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