第5話 二度目のお断り。
グループメッセージは続く。
どこまでも続く。
プールの日も4人で撮った写真が入ってくる。
振られた話は小次郎にもしていない。
小夏も振った話は晴子にしていない感じだった。
だからこそ小次郎は俺を使って晴子に会おうとするし晴子も賛成する。
正直小夏を見るのが辛いが断ろうにも「冬音!頼むよ!」と言われれば事情を話していない以上断れない。
今日は「夏休み最終日に困らないために」と銘打った集まりで図書館で宿題を手分けした。
小夏はあの日なんか無かったように「冬音くん、わかる?」と聞いてくる。俺も努めて普通を意識する。
「わかんない。小次郎?」
「お前達は本当にそっくりな」
小次郎は得意科目と不得意科目がハッキリしていて得意科目に関しては本当に頼もしい。
俺と小夏は「ありがとう小次郎」「すごいね小次郎君」と感謝を告げると小次郎も満更ではない。
順調に宿題は片付いて行き堂々と家に帰れる。
帰り道も小次郎と晴子はコンビニに入って行き、俺達は外で待つと小次郎達は余計な気を遣ってか時間がかかっている。
その間に小夏は夕焼け空を見て「綺麗な空」と言う。
赤紫色の空はとても綺麗で俺は思ったまま「本当、夏の空は綺麗だね。冬とは大違いだ」と思った事を言う。冬のそれは少し物悲しいイメージがある。だが小夏は「冬も綺麗だよ」と言う。
なんとなく夏を褒めて冬を褒められるのはお互いを褒めているようで照れていると小夏が「初めて…初めて夏が終わらなければ良いのにって思うし、でも冬の空も早く見たいの」と言った。
「夏に終わってほしくないの?」
「うん。楽しい。こんな夏は初めて」
「俺も楽しい。去年はダラダラ過ごして小次郎と遊んでただけだったから新鮮だよ」
そう、今年は新鮮だ。
去年までとは何もかも違う。
小夏が「うん」と返してきて、また良い雰囲気になった所で「ダメだよ冬音くん」と小夏が言う。
「言わないで。ありがとう。私のせいだからね。冬音くんはとても素敵な人だよ」
その言葉を言われては俺は何も言えない。「わかんないけどわかった。小次郎達が出てくるまで空を見て話してるのは?」と聞くと小夏は申し訳なさそうでいながら嬉しそうに「それは私もしたいよ。一緒に雲を見よう?星を探そう。一応聞くけど冬音くんは空は好き?」と聞いてきた。
「うん。雲や星を見るのが好きだよ」
「やっぱり私と一緒だね。本当、冬音くんとならずっと見ていられるのに…ごめんね」
俺たちはそれ以上余計な事を言わずに一番星を探していた。
「なあ、告白しちゃえって!」
花火大会の前日に小次郎はわざわざ、うちにまで来てそう言った。
もうしたし振られた。
それも2度も。
そして2度とも振られた理由はわからない。
あのコンビニの日、空を見て話す俺と小夏の写真を撮っていた小次郎と晴子はタイムラインに「ツーショット!」「私も!」と送りつけてきた。
憎らしい気持ちでもあり、ありがたい気持ちでもあった。
憎らしい気持ちの部分はコンビニで時間稼ぎをしなければ2度も振られる事はなかった事。
ありがたい気持ちは俺も小夏も嬉しそうな顔をして星を見ていた事を再認識できた事だった。
「大きなお世話だぞ小次郎」
「バカ!晴子も言ってたけど絶対にいけるって!賭けてもいいよ!」
その賭けは負け確定。
何をかけるかね小次郎君?
意地悪で腕立て伏せ千回にしてもいいんだぞ?
そう言いたかったが言えるわけもなかった。
なんとなくだが小夏との全ては大事な思い出で口にする事も憚られてしまう。
「よく言うよ。小次郎こそ晴子さんに告白しないのか?」
話を逸らすためにも小次郎に晴子のことを聞く。
「だからこそだ!俺は明日告白をする!だからお前もしよう!」
「やだよそんなツレションみたいな告白」
「じゃあ言わなくてもいいからはぐれてくれ!」
ここでようやく晴子と偶然を装って2人きりになりたくて晴子に「冬音も本気みたいだから邪魔しないでおこうぜ」と話を持って行こうとしている事を理解した。
「それはいいよ」
「ヨシ!それでこそ冬音だ!頼んだぜ!」
これで小次郎は気が済んだはずなのに「なぁ、冬音は告白しないのか?」「お似合いだぜ?」「しておけよ」としつこく言われたが「もし振られて会えなくなったら嫌だし新学期も会うからやだよ。後ろの席だぞ?」と言って黙らせた。
小次郎が帰った後で部屋で1人告白か…と思った。
いくら考えてもダメだった理由が見つからない。
嘘かもしれないが小夏は俺は悪くない素敵な人だと言ってくれている。
それなのに振られた意味がわからなかった。
夕飯はカレー。
母さんは夏野菜で作るカレーが好きで夏はよく作る。
父さんはお盆前という事で今日も遅い。
カレーを食べていると母さんが「告白するの?」と聞いてきた。
むせた。
慌てて水を飲んで「何いきなり?」と聞き返すと「小次郎君ってば声が大きいのよね」と言った。
俺は忌々しい気持ちで「小次郎ぅぅっ…」と言うと母さんは嬉しそうに「ふふ。いいと思うわよ。後悔先に立たずよ。それに慎重なのも考えものなのよ?」と言った。俺は母さんの雰囲気が普段と違っていて「母さん?」と聞き返す。
「お父さんも凄い慎重な人でね。お父さんの欲しいものって知ってる?」
「知ってるよ、家族だよ」
「そう、お父さんの嫌なものは?」
「それも知ってる。人が泣く事だよ」
俺の回答に頷いた母さんが「そう。だからこそ慎重な人だった」と言った。
「母さん?」
「お父さんには内緒よ?お父さんね、お母さんが仲良くなりたくてデートに誘ったり一緒にご飯を食べたりアプローチした時に、お父さんはお母さんの事を好きな人が居た事を知っていて身を引こうとしたのよ。
お母さんにもそれはわかってた。争いが嫌いで我慢強い人。だからお父さんとは何もないだろうなと思った時にね、お父さんが急に「2人きりで出かけましょう。どこに行きますか?」ってアプローチに答えてくれたの。そのお陰で今があるわ」
「母さん?」
「慎重も良いけど勝負に出なさいって話よ。青海と青梅、似ているからかしら?応援したくなっちゃったのよ」
「俺は…」
「俺は?」
俺はもう振られている。とは言えずに「タイミング次第という事で」とだけ言ってカレーをかっこんで部屋へと逃げた。
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