第4話 30分の初恋。

小夏の誕生日はファミレスでお昼ごはんと一緒に執り行なう事になった。

母さんから渡された予算に余裕があったところに「小夏は祝われる人だからお金はいらないからな!」と小次郎が言った事で小夏のご飯も割り勘に含まれた。


まず最初にメニュー選びで俺と小夏は悩んでしまい小次郎達から笑われる。

最終的に「小夏さん、ごめん。もしかしてドリアとパスタで悩んでない?」と聞くと「うん。エビドリアとミートソース。冬音くんは?」と返ってくる。


俺も同じだったので「お行儀悪いけど半分こ…」「しよう」となって分け合う。


ちなみに晴子はハンバーグ、小次郎はミックスグリルだった。


平和に分け合ったドリアとパスタはとても美味しくて笑顔になる。


そして食後のデザート前にプレゼントを渡す事になる。

晴子はやはり友達なのだろう、「はい小夏、この前大雨の日に折り畳み傘が壊れたって言ってたから折り畳み傘だよ」と言って渡すと小夏は「わぁ、ありがとう!大事にするね」と喜ぶ。

喜ぶ顔の小夏を見ながら小次郎が「冬音、どうだ?勝ち目はあるか?」と聞いてくる。


「元々無いって…。たまたま食事の好みが似てるだけだよ?」と返す俺に「じゃあ次は俺だな!」と言った小次郎は小次郎らしいが見栄を張ったのだろう。少し高い小物入れを用意していた。


これには難色を示す小夏。

困惑気味に「高かったよね?平気?」と聞くが小次郎は「平気だぜ」としか言わない。


晴子は小夏の空気を察して「じゃあ最後は冬音君だね」と言う。


正直自信はない。

だが出すしかない俺はプレゼントの袋を小夏に「おめでとう」と言って渡す。


大き過ぎず、小さ過ぎない紙袋。

中を見た小夏は「わ、なんだろう?」と言って取り出すと表紙が木で出来ているフォトアルバムが出てくる。


「フォトアルバム。小夏さんの為をなるべく思ったんだけど途中から俺ならで選んでた」

「冬音くんなら?」


「うん。高いものは申し訳ないし、買いに行くのに遠出も申し訳ない。それでいて使えない物を貰うのも嫌かなって思ってフォトアルバム。後これ」

そう言って俺はくる前にコンビニで出してきたこの前の小次郎の撮った写真を渡すと小夏は嬉しそうにフォトアルバムの1ページ目に写真を入れてくれる。


「ありがとう冬音くん」

「ううん。なんとかなって良かったよ」


「で?これって冬音のプレゼントは当たりなの?」

「うん。私も高いのとか迷惑をかけるのが苦手なんだよね」


この言葉に小次郎が「マジか」と言って肩を落として晴子が「勉強になったんだからいいじゃない」と励ました。



この後のデザートはまた悩みに悩んで解決しなかったので結局また俺は小夏とシェアをした。


「なんかお前達って夫婦みたいだな」

「本当だね」


「えぇ!?」

「夫婦?ちょっと晴子?」


俺は真っ赤になりながらも食の好みも価値観も似ている小夏が彼女だったら日々が楽しいかもしれないと思ってしまった。



帰り道、今回は駅で別れると小次郎がとんでもない事を…「冬音、プールと花火大会も晴子と小夏を誘うぞ!」と言い出した。


「はぁ?何言ってんだよ?」

「俺はこの夏で晴子と仲良くなる!」

…なんとなくそんな気はしたがそれを口にする小次郎が凄いと思う。


「だからな…拒否せずに4人で出掛けるぞ!」

「マジで?」


「マジだ。それにだな、お前だって小夏と仲良くなれば良いじゃないか!お前達もお似合いだ!」

多分これは小次郎の無理矢理の話なのだが小夏と似合っていると言われて嫌な気はしなかった。


帰宅してレシートと食べた物の話をしていると小次郎から早速メッセージが入ってくる。

それは俺たち4人のグループで「今度冬音とプール行くんだけど行かないか?」と言う物で晴子は「んー…いいけど、小夏は?」とすぐに返信が入る。


つい小夏の返信が気になってしまい母さんへの話を止めてスマホを見てしまった。そのスマホには「時間が合えばいいよ」と入ってきた。


「よし!後これ、プリントしてアルバムに足してくれ」

小次郎はそう言って忙しい店員さんに頼んで撮ってもらった写真を添付してきた。

小夏は「ありがとう。足すね」と返信を入れてきた。


「冬音?お母さんと話しながらスマホはお行儀悪くない?」

「ごめん。小次郎がさ」


俺は小次郎の話をすると「小次郎君らしいわね。まあそうやって健やかに大人になるべきよね」と母さんは呆れたように笑った。



そして数日後のプールは楽しかったけど散々だった。

晴子も小次郎が良いのか何かと2人で消えていき、俺と小夏が残される。


最初はプールに入っていたが2人きりはなんとなく気まずい。

プールサイドに戻って小次郎達を待ちながら時間を潰してしまう。


折角のプールなのになんて勿体無いと思う俺はまだお子様なのだろう。


小夏はトイレの帰りに高校生風の男からナンパをされていて困った顔をしていた。

駆けつけた時、本当に嬉しそうに「冬音くん」と言って俺を見た。


この目に俺は特別な気持ちを持ってしまった。


ナンパ高校生は「男付きか」とボヤくとさっさと離れていってしまう。

男の背中を見ながら「小夏さんってモテるのな」と言うと即答で「そんな事ないよ」と返される。


「今もナンパされてた」

「初めてだよ。それにああいうのは目につく獲物を全部狙うんじゃない?」


そんな事を話す俺と小夏の前にはプールサイドを駆けて転んだ男の子が居て2人で居ても立っても居られないで救護室に連れて行く。


息の合った行動で救護の人に感謝された俺と小夏は顔を見合わせて笑ってしまう。

これでだいぶ気持ちがほぐれた気がする。


緊張感がほぐれた俺が「まだ小次郎達は居ないんだな」と言うと小夏は「本当、プールサイドで待つのもなんだからプール入る?」と言う。


俺たちは流れるプールでのんびりと流されていると小夏が「小次郎君はどういうつもりなんだろうね」と言い出した。


小次郎は露骨だからバレているのだと思ったが自分から言うのではなく「どういうつもり?」と聞き返す事にした。

小夏は「晴子は私と冬音くんがお似合いだから2人きりにするんだって張り切ってるんだよね」と言う。


俺と小夏がお似合い。

小次郎だけではなく晴子までそう思っている事に俺は顔が赤くなる。


つい「俺と小夏さんがお似合い…」とオウム返しすると小夏が「やだ…照れるから言わないでよ」と言う。


そう言った小夏の顔は嫌そうに見えなかった。

その顔を見た時、今しかないと思った。


「小夏さん!」


俺が名を呼んだ次の瞬間、小夏は「ダメ、言わないで」と冷たい声で言い返してきた。

一瞬理解できずに「え?」と聞き返すと小夏は「ダメなの。私は冬音くんとは付き合えない」と言う。


ハッキリと断られた。


「え?…あ…?……」

「ごめんなさい。でも冬音くんは悪くないの。だから落ち込まないで、自信を持って。冬音くんは素敵な人だよ」


小夏はそういうと足早にプールサイドに帰っていった。

俺は後を追う事もどうする事もできずに流されていて、プールを何周もしていた。


暫くして「いつまで遊んでるんだよ?」と迎えにきた小次郎が少し憎らしかった。


俺の初恋は30分で終わった。

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