第3話 プレゼント選び。
夏の暑い日差しの中、俺は一世一代の大勝負に出る事になる。
究極の二択。
あの夏祭りの日から3日後。
どうやっても金がない。
小遣いは8月1日。
先日の奢りジュースは7月のお小遣いの残りだったので貰ったばかりの三千円は未だ無傷で手元にいる。
だがもうプールと花火大会を予定に加えるとどうしても足りない。
既にプールと花火大会の為に特別予算を組んで貰ったがそれでも足りない。
それなのに青海 小夏への誕生日プレゼントとファミレスでの飲食代を考えると後三千円は欲しい。
しかし早くプレゼントを買わないと間に合わない。
そして今日を逃すと選択肢は大きく狭まる。
父さんに相談するか、母さんに相談するか。
父さんは8月はお盆休みがある関係で休み前は忙しいと言っていつもより帰りが遅い。
だがお金に厳しい父さんに特別予算を増やして欲しいと言ってうまく行くか分からない。
逆に母さんならうまく行くかを思案したが相手が女子となると「そんな事に使わなくても良いんじゃないの?」と言いかねない。
そう、父さんなら同じ男として「それは大事だな」と出してくれるかもしれない。
その為に悩んでいる。
今もスマホに入ってくる小次郎の「プレゼント決まったかー?俺は決めたぞー」のメッセージが憎らしい。
そこに入ってくる「追い込むの可哀想だよ」と言う晴子のメッセージと「無理しないでね」と入る小夏のメッセージ。
あの祭りの帰りに小次郎が「俺たちはもっと仲良くなろう」と言い出して「冬音、証拠写真だ。後でおばさんに聞かれたらこれを見せるんだ」と言って4人の写真を撮った後でメッセージアプリのID交換を済ませた。
その後でアプリ内で小次郎は「苗字呼び止めようぜ」と言い出した事でアプリの中だけだが俺は晴子さん、小夏さんと呼ぶようになっていた。
逃げ場のない中、意を決して…。
俺は意を決して2人に相談する事にした。
ハイリスクハイリターン。
上手くいけば2人から援助を受けられる。
「…父さん、母さん…ちょっと良い?」
「何?改まって」
「どうしたんだい?」
俺は頑張って小次郎主催の青海 小夏の誕生日会の話をする。
それに合わせてメッセージアプリを開いて見せて小次郎からのメッセージを見せて「プレゼントを買う事になってて。でも今年の夏は予定満載で特別予算の増額を…」と言うと母さんは「言いたいことはそれ?」と言いながら笑い、父さんは即答で「いいよ。キチンとレシートとお釣りを持ってくる事、後は格好つけて背伸びし過ぎない事だよ」と言ってくれた。
もうお昼時だったので会話は小夏の話になる。
母さんは「友達だけど遂に冬音が女の子にプレゼントを贈るなんてね。その子どんな子?」と聞いてきて俺は小次郎から届いた4人が写る写真を見せて「この子」と言う。
「へえ、可愛らしい子ね。それに苗字も運命的な感じ」
「え?」
「冬音?あなたまさかお母さんの旧姓を忘れたの?」
ここで俺は母さんの旧姓を思い出した。
「あ、青梅だ」
「本当、青梅と青海なんてそっくり。珍しいわよねあなた」
「本当、珍しい苗字だね」
母さんではないが、こじ付けにしても考え方や食の好みが似ていて苗字も母の旧姓と似ている事に俺はなんとなく運命的な何かを感じ始めていた。
プレゼントは背伸びせずをルールに決める。
まあ、俺に似ている小夏なら高いものは困る。その為に手間がかかることすら気に病んでしまう。
だから遠出はせずに駅ビルで済ませる事にした。
ここでの予定外はまさか父さんと母さんが「ついで」と言って付いてきた事だった。
お金を出してもらっていて何も言えないが面白くない俺はどんどん不機嫌になる。
まだ許せたのはプレゼント選びが終わるまで父さん達は買い物をしていて別行動だった事だった。
一階で待ち合わせていると父さんが「そんなに怒らないで」と言いながら俺の口に素甘を運んでくる。
デパ地下で買える素甘は俺と父さんの好物で母さんは「あんこが無いとつまらない。あんこが欲しい」と言っていつも大福を買う。
「冬音、お父さんは冬音が女の子のプレゼントで悩んでいた事が嬉しくて6個も素甘を買ったのよ?」
「ちゃんと大福も買ったから帰ったらお茶にしようよ」
「そんな事を言って家に帰ろうとすると目の前に小夏が居た。
プレゼントを買った帰りに小夏に会うのは何となく居心地が悪い。
俺に気付いた小夏は「あ、冬音君」と言うが俺は「ちょっと待って」とモゴモゴさせながら言っている間に母さんが「こんにちは。冬音の母です。青海さんって言うのよね。冬音から聞いて驚いちゃった。私の旧姓は青梅だから似てるわね」と話しかける。
俺からしたらオバちゃんのウザ絡みにしか見えない。
「母さん、ウザ絡みに見える」
「うわ、失礼しちゃう。冬音がお父さんと素甘を食べてるから話し相手になってたんでしょ?」
ここで小夏が「素甘」と呟き、俺はピンときた。
「もしかして小夏さんも素甘好き?」
この質問に父さんが「冬音?」と聞いてくる。
「俺と小夏さんって食べ物の好みが似てるからさ、もしかしてって思ったんだ」
この言葉に父さんは嬉しそうに紙袋に手を入れて「引き留めちゃったからお詫び。駅地下の甘党天国の素甘です。良かったら食べて」と言って素甘を取り出して小夏に微笑みかける。
小夏は「いいんですか?」といいながら、嬉しそうにそれを受け取った後で一瞬悲しそうな顔をした。
俺はそれが気になったが小夏は「じゃあ、もう行かないといけないんで」と言ってお辞儀をすると「冬音くん、またね」と言って足早に行ってしまった。
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