第2話 夏祭りの夜。

俺は単純だ。

スマホに入ってくる友達からのメッセージに返事をして夜更かしをして、朝寝坊が許されて起きた時にやっているアニメの再放送を見たら、あの日青海 小夏に睨まれた事は忘れていた。


昼飯の素麺を食べていると小次郎からメッセージが入る。

今晩の夏祭りに関して何時に集まるかというものだった。


母さんに確認を取ると6時から8時にしておくように言われたのでそのままを小次郎に伝える。


こうなると午後は遊び歩けないので渋々宿題に向かう。


ちょうど疲労とストレスの限界になった5時過ぎに小次郎が「早いけど迎えにきたぜ!」とやってくる。


俺は玄関に通した小次郎に「小次郎?宿題から逃げてきた?」と聞くと小次郎もニヤリと笑って「冬音もだろ?」と言う。

頷いた俺は素直に「助かったよ」と言うと小次郎はドヤ顔で「だろ?」と言う。


母さんはそんな俺たちを見て呆れながら送り出してくれた。


早い時間だったので夏祭りはまだ混んでいない。

大人が来るのはもう少し暗くなってからなので今が丁度いい。


「先に買ったらあそこで食べようぜ」

小次郎が指差したベンチを見てOKをすると一度バラける。

バラけるのには理由があって俺と小次郎の買うものは全く違うから。

俺からすれば焼きそばは損した気がするが小次郎からしたらお好み焼きは損した気がするらしい。


「一個ください!」

俺の言葉にお兄さんが「あいよ」と愛想よく答えてくれて容器にお好み焼きを入れてくれる。


それを待っていると「一個ください!」と聞こえてきた。

なんの気もなきに声の方を見るとそれは青海 小夏だった。


「あ、青海さん」

「日向くん」


俺はここで終業式の日のあの顔を思い出した。

だが青海はそんな事は無かったように「来たんだ。佐々木君と?」と話しかけてくる。


「うん。青海さんは?」

「私は晴子と」


俺はそうなんだと言いながら彼女と仲良く話をしている渋谷 晴子を思い出していた。

夜店というのは不思議なもので、俺が来るまで誰も来なかったのに俺と青海 小夏が居るとすぐに人だかりが出来る。


お好み焼き屋のお兄さんは混んだ店先を見ながら嬉しそうに「はいおまたせ!」と言って俺にお好み焼きを渡してくれる。

この混雑で立ち尽くすのはまずいので青海 小夏に「またね」と言って立ち去り、たこ焼きとラムネを買ってベンチに戻る。


タイミングよく、たこ焼きは焼いている最中だったので待ったが出来立てが手に入った。


小次郎はそんな事に怒るタイプではないから混んでたの一言で済むだろう。


ベンチに戻ると小次郎は立っていた。

何かと思ったらそこには渋谷 晴子と青海 小夏が居た。

小次郎はいつもの感じで「遅かったな」と言う。


「うん。たこ焼きが焼きたてで待ってたんだ。それで渋谷さんと青海さんは?」

「フランクフルトで会ってな!折角だから一緒に食べようって誘ったんだよ」


それでキチンと女子達にベンチを譲るのが小次郎らしくて俺は悪い気はしない。


「ベンチ…使っていいの?」

そう言ったのは青海 小夏で小次郎はレディファーストだからと返す。

だがそのベンチの話はすぐに終わる。

渋谷 晴子が俺と青海 小夏を見て笑ったからだ。


「ふふ、本当だね佐々木君」

「な?言ったろ?」


何を言われているのか分からない俺に小次郎が「冬音と小夏の買ったもんがまんま一緒なんだよ。俺は小夏を見て「それ冬音に持たされたの?」って聞いちゃったよ」と言う。


ベンチに置かれた青海 小夏の食べ物はお好み焼きとたこ焼きとラムネだった。

俺は「あ、同じ」と言ってしまう。

どうやら青海 小夏はたこ焼き屋からお好み焼き屋に回ってラムネを手にしたようでたこ焼きはその時は残っていたから早かったらしい。


「好きなんだからいいでしょ?」

「そうだよ好きなんだからいいだろ?」


ここで小次郎が「なんかお前達ってこうして見てるとそっくりだよな」と笑う。


「似てるか?ただお祭りだからラムネを飲みたくて、お腹にたまるからお好み焼きとたこ焼きが好きな奴なんて世の中に沢山居るだろ?」

「そうよ。すぐに似てるとか言うんだから」


そう言っても俺と小夏は似ていた。

油断すると同じタイミングでお好み焼きからたこ焼きに代わり、たこ焼きからラムネに代わっていて小次郎と渋谷 晴子に笑われる。

食べ終わりのタイミングも一緒でなんとなくバツが悪くなり「ゴミ、捨ててくるから小次郎達のも持って行くよ」と言うと「晴子、私も持って行くからそれまとめよう」と青海 小夏が立ち上がる。


渋谷 晴子と青海 小夏の分も持っていくつもりだった俺は「え?いいよ?」と言うが青海 小夏は「ううん。悪いし人に頼むの苦手なんだ」と言ってゴミを纏める。


これも小次郎に言わせると似ていると言われてなんとなく断りにくくて一緒にゴミを捨てに行く事になった。遂先日のピザの話を聞いてみたくなったその時、ゴミ捨て場のそばで泣いている子供がいた。


「どうした?」

「何があったの?」

俺と青海 小夏は同時に前に出て子供に問いかけると男の子は「お婆ちゃんが居ない」と言ってさらに泣く。


「なんでこんなに人が居るのに皆助けないの?」

「とりあえず探しながら係の人に声をかけよう」


俺たちは阿吽の呼吸で「お婆ちゃん探そう」「後は大人の人に頼もうね」と言ってゴミを捨ててから男の子の手を取ってこの子の祖母を探す。


「ごめん、渋谷さんに遅くなるってメッセージ送ってくれないかな?俺は大人の人に話しておくからさ」

「…うん。わかった」


俺は大人の人に声をかけると救護や警察のいるテントに連れていってくれと言われたので素直に男の子の手を引いて連れて行くと祖母は孫が見当たらないと青い顔でテントに来ていた所で人探しは簡単に終わってしまう。


男の子は俺と青海 小夏に「お兄ちゃん、お姉ちゃんありがとう」と言い、俺たちは「良かったよ」「本当、お婆ちゃんに会えて良かったね」と返して別れた。


ベンチに戻りながら小次郎達のことを聞くと「ベンチで待ってるって」と教えてくれる。


「でも良かったよな」

「本当だね。迷子はダメだよね。……キチンと帰りたいよね」


そう言った時の青海 小夏の顔はあの日、ピザの日の顔を…泣きそうな顔をしていた。

なんて声をかけるか困っていると待ちきれなかった小次郎と渋谷 晴子が迎えにきて合流する。


「お前達は正義の味方か?」

「は?なんだよ小次郎」


「困っている人が見捨てられないからって門限過ぎるか?」

「え!?」


俺は慌ててスマホを見ると8時15分になっていて真っ青になった。


真っ青な俺を見て青海 小夏が「日向君?」と言っている横で小次郎が「…冬音、俺達は缶ジュース1本で手を打ってやるぞ?」と言う。


「どうしたの?」

「うちの母さん、門限には滅茶苦茶厳しいんだよ。悪いんだけど電話代わってくれないかな?」


俺は青くなりながら家に電話をすると「随分楽しんでるのね?」という母さんの第一声。


「これには事情があって…、とりあえず小次郎の説明を聞いて」

「また小次郎君をダシにするの?」


この段階で俺はこれはダメなやつだと思って小次郎に出す予定の手を左に回して渋谷 晴子に渡して「説明してくれない?」と言うと渋谷 晴子が出た事で驚いた母さんに俺と青海 小夏が迷子の子供を見つけて、その子の祖母を探していたと説明したらようやく納得をして「またウチの冬音が見てらんないってやったのね?その青海さんは居るのかしら?」と声が漏れてきて俺のスマホは青海 小夏の手に行き「本当にウチの子は我慢できなくてごめんなさいね。貴方達は門限大丈夫かしら?怒られそうになったら冬音に言ってくれたら私から説明しますからね」と聞こえてくる。


「…はい。ありがとうございます」

また暗い声になった青海 小夏だったが母さんから電話を戻してほしいと言われた俺は「お家の前まで行くとご迷惑だから近くまで送ってから帰ってきなさい。後はキチンと帰る時に連絡しなさいね」と言われて途中まで送る事になった。


送ることになったとは言え渋谷 晴子の家に泊まる事になっていたので渋谷 晴子の家の側まで4人で歩く。

俺は想定外の大出費でジュースを奢りながら「助かったよ」と言うと笑われてしまった。


小次郎はコーラ、渋谷 晴子はオレンジジュース。

そして青海 小夏はお茶だった。

まあお茶は皆好きだからこじ付けだが小次郎は「そんな所まで似てるのかよ?」と笑っていた。


「そんで冬音、来週時間取れるよな?」

「何?」


「小夏の誕生日が8月だからおめでとうと言ってファミレスでケーキを食べる事にしたんだ。良いよな?」

「え?誕生日?」


「小夏は夏に生まれたから小夏って名前なのよ。小夏のパパさんが名付けたのよ。それで夏休み中だから皆からお祝いがない話をしたら佐々木君がね」

「お前達ってそんな所も似てるよな。冬音も親父さんが冬に生まれたから名前に冬って入れたんだよな」

そう、俺の父さんは冬の寒い日に生まれた俺に冬の音が聞こえた気がしたから冬音にしたと言ってくれた。


「食べ物の好みも似てて、人助けもして名前の由来も似てるなんてな。本当にそっくりだよな。なあ冬音、ノーヒントで小夏が喜びそうなものを当ててプレゼントしてみろよ」

「え!?」


「悪いよ佐々木君」

「良いんだって、それで欲しいものだったり嬉しかったりしたら冬にお返しすれば良いんだって」


この言葉でハードルはグングン上がって行き引くに引けなくなった。


蒸し暑い夜なのに目の前で申し訳なさそうにする青海 小夏を見ていると俺は暑さなんて気にならなくなっていた。

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