最高の初恋。
さんまぐ
第1話 熱病の後で。
俺は生きているのか?
幽霊なのか?
夢を見たのか?
幽霊に会ったのか?
そんなことを考えるきっかけは14歳の夏。
それ以来ずっとそんなことを考えている。
アルバムを見返すと出てくる写真達。
自分の記憶に今もいる彼女はアルバムの中には居ない。
14歳の夏。
期末考査の終わりと共に梅雨が明けた時、俺は原因不明の高熱で土日を挟んで4日ほど学校を休み、ベッドの上で携帯ゲーム機すら触れないほど寝込んでから登校した。
学校はたった2日休んでいただけなのに周りの夏休みムードに乗り遅れて浦島太郎の気持ちになりながら席に着こうとすると級友の小次郎が「冬音、お前なんで小夏の席に座ってんの?高熱のせいで頭やばいんか?」と声をかけてきた。
何を言われたかわからなかった俺は「小夏?」と聞き返すと小次郎が目を丸くして「マジか?青海 小夏だよ」と言われる。
そう言われても顔も名前もわからなかった。
窓際の最後列、前から6番目が自分の席だから座っていただけで…。
あれ?
目の前に座席が6個ある。
「あれ?俺の席は6番目?」
「だからそこは小夏の席だって」
混乱する俺の背後から「佐々木君?」と聞こえてくる。
小次郎が声の方を見て俺に「ほら、小夏来たからどけって冬音」と言う。
俺は声の方を見るとロングヘアを結んだ女子が怪訝そうに俺と小次郎を見ている。
小次郎は申し訳なさそうに「冬音の奴、熱でおかしくなったのか小夏の席に座ったんだよ」と説明すると小夏と呼ばれた女子は俺を見て「ふゆね……日向君、おはよう。大丈夫?」と聞いてくるが俺には見覚えがない。
だが向こうは俺を知っているようなのでひとまず「ごめん、まだ頭がボーッとしているみたいなんだ」と言って自席に着くと小次郎は「まったく、夏休みの予定とか忘れてないだろうな?」と話しかけてくる。
「予定って町会のお祭りと花火大会だろ?覚えてるよ」
俺の返答に小次郎は「嘘だろ?」と言うと「プールはどうしたプールは?」と聞いてくる。
そんな約束をした覚えはなかったが本格的に小次郎に心配されたので「覚え直すから平気だって、また忘れてたら教えてくれ」と言って話をすませる。
この日から不可解な日々が始まった。
後ろの席にいる青海 小夏。
俺からすれば初めましてなのだが向こうは俺を知っていて周りも青海 小夏を知っている。
女子達も仲良く話をしているし担任も普通に出欠確認をするし青海 小夏の名前を呼ぶ。
本当に熱病で俺だけがおかしくなってしまったのだろうか?
だとしたらなんで青海 小夏の事だけ?
あ、あとはプールも。
14歳…誕生日は冬なのでまだ13歳だが13でボケたと思いたくなくて必死に順応することにしたし予定も買ってもらったばかりのスマホに登録をしたし時折見て覚えている事に安堵した。
そして必死に思い出そうとするとつい青海 小夏に目がいく。
「お前最近小夏をよく見てるよな」
小次郎にそう言われて「なんであの日忘れていたのか気になったんだ。プールも忘れてたし」と返す。
「お前、本当に大丈夫か?俺みたいな単純な名前は忘れても青海なんて忘れないだろ?」
そう言うが余程佐々木 小次郎の方が忘れない。
小次郎の父親がノリのいい人で佐々木に産まれた男子なのだからと小次郎にしていた。
なので初めて会った日は剣道をやったりしているのかとつい気にした。
小次郎は名前の事が嫌すぎるらしく父親に「うちが宮本なら?」と聞いたら「武蔵」と即答され「じゃあ土方なら?」「歳三」と言われ、「徳川なら?」「吉宗」と言われた時に佐々木 小次郎を受け入れていた。
「まあ良いけどさ。そう言えば小夏も冬音の事を一瞬忘れてたんだよな。すぐに日向 冬音って聞いて思い出してたけどな」
この言葉に驚いたが俺のド忘れとはまた違う感じなので気にするのはやめにした。
終業式までの間、見る回数が増えた青海 小夏はなんと言うのだろう、見ていて気持ちのいい女性だった。
他の女子と話す時の相槌の入れ方や相手を傷つけない話し方なんかは好感を持てたし、授業中のミスやミスをするポイントなんかは思わず「あるある」と言いたくなった程だった。
落とし物を無視せずに拾って職員室に届けた時なんかは青海 小夏が拾わなければ俺が拾って届けようと思っていた。
段々と青海 小夏と言う女性に興味を持ってきた頃に学校は夏休みになった。
大量の宿題と共に言われる来年受験だという現実を突きつけるありがたい話達。
さっさと帰って夏休みを満喫したい。
夏休みを満喫したい気持ちで飛んで帰る時には青海 小夏の事は頭から抜けていた。
終業式の日はちょっとしたご褒美デーで父さんが出前の日と決めてくれた。
これは始業式も同じで、始業式は今日から学校で気が滅入らないように出前で元気を出せと言ってくれてはじまり、終業式は終わった日として儀式ではないが区切りとして出前を食べる事になった。
母さんは「冬音の好きなものでいいわ」と蕎麦屋のメニュー表を持っていたが蕎麦屋だとすぐに食べ終わって特別感がないので俺はピザにする。
父さんは帰りにピザの話を聞いて「取りに行くと半額だからピザ屋さんの前で待ち合わせて倍食べよう」と提案をしてくれた。
俺は父さんとメッセージアプリで連絡をしながら待ち合わせをしてピザ屋に向かうと既に父さんが待っていた。
「遅いよ。ピザは父さんが受け取ったからね?ケータイ使って連絡しているんだからピザ屋さんまでのキチンと計算しなきゃダメだよ?後は遅れる時には連絡もだよ」
「はーい…ごめんなさい」
「いやいや、怒ってはいないさ。一学期お疲れ様。さあ帰って食べよう。コーラは買った?」
「うん。買っておいたよ」
父さんはこういう事では怒らないが世間に出て周りに迷惑をかける大人にしないためにと注意をしてくる。
そしてピザにコーラの組み合わせは自分で飲むのではなく俺に飲ませるために気にする。
「じゃあ帰ろう。冬音はピザを持てる?父さんの鞄とどっちにする?」
「ピザにする。重さは鞄でも持ちにくさはピザだから俺が持つよ」
俺と父さんはニコニコと話しながら歩いた時、視線の先に青海 小夏がいた。
学校で見た青海 小夏とは顔つきが違っていて、愕然とするような真っ青な顔、そして今にも泣きそうな顔をしていた。
青海 小夏は俺の視線に気付くと寒気がするような顔で睨んできた。驚く俺を無視して青海 小夏は次の瞬間には小道へと入っていった。
俺は青海 小夏に睨まれるような何かをしてしまったのか分からなかった。
ピザの匂いが鼻に届く。
俺は混乱していたがピザの匂いを嗅ぐうちに青海 小夏は別の何かを見て睨んだのかもしれないと思うようになっていた。
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