3
雫が学校にやってくると、出迎えかなと思うぐらいにみんなが集まってくる。その中には隣のクラスの子もいるし、女子だけじゃなくて男子もいる。
僕はその様子を自席でぼうっと眺めていた。あそこに混ざるような意気地は、僕にはない。
「まーた鈴谷さん見てんのか」
「え? あ、うん」
振り返ると、友人がよっ、と手を上げている。それに軽く返し、二人並んで雫の方へと視線を向けた。
「相変わらず今日も美しいよなぁ。それでいて誰とでも分け隔てなく会話してくれるんだもんな。ほんと、女神かなんかかよ」
「そうだねぇ」
「でも好かれてると勘違いしちゃうやつが本日も出たとのことで。見事な玉砕喰らってたよ」
「そうなんだねぇ」
「対してお前はいいよな。幼馴染みなんだもんな」
「そうなんだよねぇ」
「仲もいいんだろ? ワンチャン付き合えるんじゃね?」
「…………っ」
い、言えない。
付き合ってること以上のことをしてるとか、言えるわけがない。
内心で冷や汗ダラダラになっている僕をみて、友人が詰め寄ってくる。
「なんだその反応、まさか」
「つ、付き合ってはないから!」
「付き合って"は"?」
「あぁいや、その……言葉のあやというか、なんというか」
「よく分からんけど、ま、いいか。オレがお前の立場だったら絶対、嫁になってもらうけどなぁ」
友人がぼやいたその言葉に、ビクッと肩が震えた。
そんな気軽に言えるなんて、コイツとんでもないな。感嘆の眼差しで、見つめてしまいそうになる。
僕が雫と必要以上の間柄になれている、その理由。
それはいわゆる、――結婚の約束をしたからだった。
小さいころ、成り行きで指切りをしたそれを、雫はいまも覚えていて、文句も言わずに待ってくれている。
けど、ヘタレな僕にはなかなか、それを受け入れる覚悟がない。考えてしまうのだ、僕と彼女では釣り合いが取れてないだろうと。
ずっと甘えてばかりで、男としてはひどいもんだ。ひとこと、結婚してと言えるぐらいの度胸が欲しいな。
――なんて、先送り思考になってたのがいけなかったのかもしれない。
それは、放課後のことだ。
帰り支度を済ませ、教室をあとにしたときだった。
「あれっ、雫……?」
廊下の先に見覚えのある姿を見つけ、こっそり声をかけようとした時、気づいたんだ。
隣に知らない男がいて、二人がなんだか仲睦まじそうにしてる光景に。
二人はそのまま廊下の角を曲がっていく。けど、僕はあとを追えなかった。
怖かったのだ、二人の関係性を知るのが。
「…………っ」
くるりと踵を返し、昇降口に向かって走る。
目の前がぼやけて何度も何度も転びながら、僕は家に逃げ帰ったんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます