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「ごめんなさい! 何回も出しちゃってごめんなさい!」
「いつまでそうしてるの……」
顔を上げると、雫が呆れたような表情をしている。
というのも僕が、綺麗な土下座を披露してるからだろう。
いま僕たちはリビングにいた。床と一体化し始めている僕をよそに、雫はキッチンを動き回っている。朝ご飯を作ってくれているのだ。
僕の両親は仕事でほとんど家に帰ってくることがない。その両親に代わり、雫がいつも僕のご飯を作ってくれているわけだ。
制服の上からエプロンを身にまとい、キッチンに立っている女子の姿というのは、男子にとってあこがれのシチュエーションだろう。しかも相手が雫のような美人さんとか、前世でどんだけ徳を積んだんだ僕は。
と、現実逃避しかけて、我に返った。謝ってる最中だってのに、喜んでどうする。
「いやその……付けないで、三回はさすがにマズいかなって……」
「べつに大丈夫な日だから、気にしなくて良いのに。むしろ元気になってくれたから、私は嬉しいし」
「げ、元気ではないけどね……?」
ちょっとげっそりしながら言うと、雫がこっちに近づいてきた。
目の前で屈んだかと思うと、なにかを差し出してくる。どうやら栄養ドリンクらしい。
「これ飲んで。疲れも取れるから」
「あ、うん、ありがと……」
この話はこれでおしまいとばかりに、雫がキッチンに戻っていく。ビンを開け、ごくごくと流し込みながら、その姿を観察する。
雫は僕の朝食に限らず、お昼の弁当も作ってくれていた。彩りが豊かで、栄養の方も考えられているそれはとてもおいしそうだ。いや、実際のとこめちゃくちゃおいしいんだけど。
しかもこれ、僕のためだけに作ってくれてるんだよな……雫はもう、自分の家でご飯済ませてきてるから。
雫と料理に見惚れながらぼうっとしてるうちに、朝ご飯はできていった。次々とテーブルに運ばれていき、いい匂いが鼻腔をくすぐってくる。
「ささ、座って座って。ご飯食べましょ」
「あ、うん……てかさ、近くない?」
毎度のことながら思うんだけど、雫の距離感がおかしい。
僕の肘とぶつかるぐらいの密度で、隣に座っているのだから。
ご飯以外の、甘い良い匂いがして、顔がカッと熱くなる。
「食べさせてあげるには、最適の距離だと思うけど」
「自分で食べられるから! 気にしなくていいよ――っ!?」
「気にしなくていいのは紺太の方よ。ほら、口開けて」
いつものごとく僕の箸を使い、箸先で綺麗に切り分けた卵焼きを、近づけてくる。いわゆるあーんというやつだ。
恥ずかしいけれど、毎日作ってもらってるくせに抵抗するのは気が引ける。そう自分に言い聞かせ、おそるおそる口に運んだ。
「どう、おいしい?」
「おいひいれふ……」
「ふふ、こんなとこにご飯粒ついてる……ちゅっ」
「っ!? ついてるはずないよね! まだ食べてないんだから!」
「ついてたんだから仕方ないでしょ」
なぜか呆れたような顔で、雫が言ってのけた。な、納得いかないっ。
とまどう僕をよそに何度も箸先を近づけてきては、そのたびにキスの雨を降らせてくる。頬っぺた、口元にまぶた、耳元や首筋にまでと見境なくだ。
「ちゅ、ちゅっ……ちゅーっ」
「ふぁっ……そんなとこにまで、やめて……学校いけなくなっちゃう、から」
「痕はつけないから心配しないで。それとも、つけた方がいい?」
「そもそもキスするのをやめてほしいというか……」
「興奮しちゃうから、でしょ?」
隣で妖艶な笑みを浮かべたかと思うと、雫の手が僕のズボンをまさぐってくる。
すっかり油断してたせいで声にならない声がもれてしまった。
「~~~~ぁっ!?」
「あんなにしたのにまた元気になってる」
「そっ、それは雫が、煽るようなことしてくるから」
「なら、責任とらなきゃね? 手と口、どっちがいい?」
「えっ? ……く、口でお願いします」
「紺太のすけべ」
「っ!? だ、だって、手だと、後片付けとか……大変だから」
「ふふっ、そういうことにしといてあげる」
恥ずかしげに言うと雫は嬉しそうに微笑み、テーブルの下に潜り込んできた。なにやらガサゴソと動きがあるけど、僕の視界からは確認できない。
いつどのタイミングで攻められるのか、ハラハラしていると、気持ちのいい刺激が襲ってきたんだ。
「うわぁっ!? そ、そんなっ、いきなり!」
「んむっ……んっ、私もたんぱく質取らなきゃ」
テーブルの下から聞こえてくる水っぽい音に、容赦のない攻め。
僕はだらしなく椅子に寄りかかりながら、流れに身を任せるしかない。
「あ、あのさっ……やってもらってなんだけど、苦しくないの?」
「んー? もう慣れたから、平気だけど」
「な、慣れとかあるんだね」
「なにごともそうなるものよ。だから、紺太もこの生活に順応しなきゃ」
「それはちょっと難し――いっ!?」
強めに吸われて、僕は震えながらテーブルに突っ伏した。
うぅっ、学校行く前にもう一本、栄養ドリンク飲んでこうかな……。
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