17節『Sir Lustar』
17節『Sir Lustar』
どれほど時間が経っただろうか。230名を過ぎた頃から何人斬ったのか分からなくなってしまった。ノルデンシュタインの街には既に火の手が広がっていた。
リュスタル卿は手負いの身でありながら戦い続けた。周りの騎士や兵や街の人々が次々と倒れてゆき、その傷ついた身体は疲労と傷と負荷の痛みで悲鳴を上げている。ノクシェ卿の施した補助魔術がなければ既に限界を迎えていただろう。しかしその魔術も永続的に効力を発揮するものではない。
個の兵には勝てる、が軍には勝てない。逃げ場もない。援軍と言う希望もユーヴェルボーデンの秘策成功への期待も疲労によって削がれてゆく。彼の中にあるものはただ“負けられない”という騎士の矜持と亡き王と今を生きる王への忠誠だけだった。
此処で戦ってから既にソルヴスレイブの能力開放を二撃ほど行っている。もう開放は行えない。次に放つとすれば、それは命と引き換えだ。
一人二人と相手をしていくとともに傷も徐々に開いていき、その痛みすら熱と疲労でぼやけてくる。戦いながらリュスタル卿はかつての冒険やヴェーク王やフィシュカ王妃、SYUU王や騎士ら、そして愛する家族と過ごした日々を回顧する。
そうだ。ルクスラクスの領主の元で生まれ、ヴェーク王に仕え、貧しきアブグラムの繁栄に努め、遂には王と共に深淵歩きを成し遂げた。そして罪を犯した。人には明かせぬ罪を。
私は罰を受けていない。だが、罰を下せるのはあの方だけだ。あの方だけは私の罪を知っている。私はあの方にいつかは裁かれねばならない。しかし、私は一体なんの罪で裁かれるのだろう。だがそれも叶うまい。私は此処で──。
剣戟の衝撃が感覚を強制的に覚醒させる。
「戦いながら走馬灯か。これはいよいよだな」
リュスタル卿は意識を過去に持っていかれ、そして我に返ってを繰り返す。
脂汗で視界が霞み、陽炎で視野が歪む。
諦めない理由を探す。レガリアの繁栄のため、王の初戦に勝利を飾るため。
そうだ、我が息子フォトニスにも長いこと会っていない。賢者ヴィーサスに預けてからどうしているのか。あまり父親らしいことをしてやれなかった。妻の作った魚料理もまた食べたいものだ。鏡の騎士とも決着が着いていなかったか。リュスタル卿はまたふと我に返ると。深く呼吸をした。
「まだ、まだ戦えるさ」
ふらふらとまた一人敵を斬り伏せると剣を構え直す。
「王よ。我が罪を粉骨砕身全身全霊の斬闢の一振を以て贖うことで、どうぞお赦しを。この命、貴様らに差し出すことは出来ん。共に来てもらうぞ!!」
「蒼銀の光よ、闇を闢け、敵よ闢け、我こそは彼の王と共に深淵を越えた騎士リュスタルなり─」
「Sølv──」
身体に残る全魔力を一振りに集結し命を引き換えに放出する筈が補助魔術と干渉を起こして補助魔術が弾けることでその魔力は放出されることが妨げられた。
リュスタル卿は力なく崩れ落ちた。魔力を剣に集める力は疎か補助魔術が解けたことによって傷は開き立ち上がることもままならない。
「漸く倒れたか。化け物のような騎士だな。これで我らが花もお喜びになる」
「骨のある者を亡くしたと残念がるかもな」
「骸となれば神のご慈悲もあるだろう」
敵が寄ってくる足音が聞こえる。
一歩一歩。
まるで命が尽きるカウントダウンのように
「これが罰か。騎士の矜持を果たせぬとは」
フィシュカ王妃、我が王、申し訳ありません共に道を歩めなくなりました。
アイナ、Photonis、仲間たちよ、すまない語り合うことができなくなった。
「祈っても遅い!!夜明けに花咲く糧となれ!」
アルバフロスの兵が剣を振り下ろす。
「たしかに此れこそが……無念。シルヴィア……お前にも」
嗚呼、目を閉じるというのはこんなにも暗くなるものか──。
「卿にまだいなくなってもらっては困るのだがな」
声が聞こえた。
偉大な──
懐かしい──
愛おしい声が──
嗚呼。
嗚呼、なんという。
これこそが、私の信じが王者の姿。
とどめを刺さんとしていた敵兵は王の足元に既に倒れていた。
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