15節『紛戦』

15節『紛戦』


 ヴァニット卿がユーヴェルボーデンの城門まで来ると案の定既に門扉は閉じられていた。結晶法奪還を阻むためか或いは帰還を拒むためか。いずれにせよ砲台のある城壁内部へと至るためには中へと入る必要がある。ヴァニット卿は馬を降り王命の元入門する旨を門兵に伝えたが、その返事を聞くことは出来なかった。するとヴァニット卿は「そうか」と一言呟くとそのまままた馬に跨がり十メートルほど後退ると、そこから勢いよく門へと向かって駆け出した。そして自身の数本のナイフを片手で取り出すと扉の各所に投げ込みそのまま突き進みながら扉を斬りつけた

「爆ぜろ」


 ヴァニット卿が投擲したナイフが爆ぜると同時に扉は容易くがたつき彼の斬撃は扉ごと内へと吹き飛ばした。すると守衛やら爆音を聞きつけた兵やらが必然と集まって来て、その中の一人が声を荒らげて言う


「ヴァニット卿!どういうつもりです!城門を破壊するなど!!」


ヴァニット卿は馬から降りて表情一つ変えずに答える。


「王命にも応じず門を開けなかったのは貴様らだ。それに、見ない顔ぶれだな。ザフィア派の者か」


「この大事に街を護る要を破壊するとは、貴様敵に寝返ったな!!」


兵の一人がそう言うとヴァニット卿は一瞬眉をひそめてその兵に刃を突きつけた。


「時間が惜しい。余計なことを語らず道を開けろ」


するとまた他の兵が「ヴァニット卿が謀反だ!捕えろ!!!」と声を挙げるや否やヴァニット卿を取り囲んでいた兵らは一斉に飛びかかった。ヴァニット卿はまた「そうか」とポツリと呟くと瞬く間に周囲の兵を一周した。そして一目散に砲台の格納される城壁まで駆け抜けていった。その間も次から次へと兵が湧いてくる。本来は味方であろう兵らを薙ぎ倒す傍ら見覚えのある警備兵が倒れているのをいくつか見かけた。


 ヴァニット卿が目的地である城壁の前までたどり着くと一人の大柄な騎士が立ち塞がっていた。


「此処を通すわけにはいかんな。ヴァニット卿」


「コランダム卿か。そこを退け」


「尋ねぬのだな。ルビン王の騎士であった俺が卿を止めるということがどういうことか」


「興味はない。この状況が全てだ」


コランダム卿は高らかに笑うと

「そうかそうか。だがな、これが正しい選択だ。この兵器を用いたとてアルバフロスはいずれその報復の矛先を真っ先にこのゾリダーツへと向けてくるだろう。そうなってはゾリダーツはそれこそ終いというものだ。ザフィア様は今後のゾリダーツの安全とアルバフロスとの新たなる可能性を──」


「退かないなら押し通るまでだ」ヴァニット卿はザフィア卿の話を聞き入れることなく長刃の槍で斬りつける。


コランダム卿はそれを間一髪でいなすと。

「貴様のそういうところが騎士として相応しくないところだッ」とその戦斧を切り返す。

「君主に忠義を誓えぬ騎士がよく言えたものだ」

コランダム卿とヴァニット卿には体格差はありながらヴァニット卿は圧されることなく槍を軽やかに扱い重厚な攻撃を防いでは攻勢に転じている。


「この戦い、名高きヴァニット卿を打倒さずとも時間稼ぎで十分だ。それだけでこの

策は果たされる!そして私はゾリダーツの新たなる高名な騎士となるのだよ!」

コランダム卿の戦斧は地を割りながら、そしてそれをいなすヴァニット卿の鉱石の槍を削ってゆく。


「姑息な奴だ。陛下が貴様を行軍に同行させなかったのにも納得がいく」

ヴァニット卿の槍は削れ、それが光の粉となって周囲へ舞い散る。

「そうだ!奴には見る目がなかった!だから示してやるのだよ!ここで策を成功させて、私の真価は認められる!」


コランダム卿の攻撃をヴァニット卿は躱しいなし続けるもその槍の刃は削られてゆく。

「石工紛いの貴様でも知っているだろう!この高密度鉱石ホワードゥルックに魔力を込めた重量戦斧、貴様の見てくれだけの宝石剣槍など打ち砕かんばかり!」

そう言って勢いよく振り上げられたコランダム卿の重量級の一撃がとうとうヴァニット卿の槍の刃の先端部を勢いよく打ち砕いた。




「陛下!我が軍、レガリア軍ともに挟撃部隊は辛うじて戦線を維持出来ていますが、当軍の先鋒部隊、次鋒部隊はもう保ちません!」

「これは本格的に足止めせねばならないようだな」


 ルビンは深く呼吸をすると可能な限りの兵に届くよう言った。


「勇敢なるゾリダーツの諸君。よくぞ此処まで戦ってくれた。諸君の奮闘の甲斐あって成された挟撃も今やその戦線は押し返されつつある。いずれかの軍が突破されるのは時間の問題だ。現時点に於いて我らが必勝の策、結晶砲の稼働は困難なものとなっている。事態の収集にむけヴァニット卿が対応に当たっている。しかし、もし稼働が遅れれば結晶砲は敵軍を的確に捉えることは叶わない。故に、時の石がこの後2つ輝いてなお砲が放たれねば最期の足止めとして我々本軍自らが敵軍へ突貫する。この手でアルバフロスを討ち取らんとする勢いでだ。

 私は、彼の散光の騎士が必ずや結晶砲を用いて今まさに迫りくるアルバフロスの軍勢を退け、滅するものだと信じている。しかし、これは私の想いだ。願いだ。身勝手なものだ。それに諸君を従えるのは私の本望ではない。今これより撤退する者がいたとしても糾弾はしない。此処から先は名誉のみの戦いだ。未来を守り散りゆく戦いだ。それを分かって尚私に着いてくる者のみ残るがいい。その命。私に託してくれ!」


「『生きろ』か。その約束は果たせそうにない。すまないな」


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