11節『凛麗』
11節『凛麗』
レガリア軍本隊がユーヴェルボーデンへ出立した日。ノルデンシュタインに留まったレガリア軍は魔術を用いた防衛術式を張り巡らせ守りを強固にし、翌日には東に数か所ある小砦を奪還するために出陣した。
東へと進み数刻もしないうちに接敵し、戦闘が始まる。
噂通り魔術の類は何らかの力の作用により有効な打撃は与えられないものの、ノクシェ卿やシュスター卿が率いるレガリアの誇る魔術師団はノルン随一であり牽制には大いに役立った。ノルデンシュタインの騎士や兵の活躍もそれに劣らずビヨンが鍛えたであろう武具の剣や槍や斧などを用いて敵兵と渡り合う。そして何よりリュスタル卿の剣撃凄まじく、瞬く間に占拠された小砦を一箇所、二箇所と奪還し、三箇所目へと進行していった。
「流石は斬闢の騎士リュスタル!リュスタル卿に続け!此の機に戦線を押し戻す!」
この砦を攻略することで、ゾリダーツ北部の辺境、アイゼンヴァンドの麓の城まで敵を押し退ければノルン北部の進行は阻止出来る。連合軍はレーヴェンハイト卿の檄と共に一騎加勢に砦へ進行した。
しかし、三箇所目の砦の防衛は厚く、敵兵の練度もこれまでと比べて高いものであった。ノルデンシュタイン攻略の本隊が詰めていたのだ。
敵兵は先陣を切るリュスタル卿を抑え込もうと消耗を顧みずに攻撃を集中する。味方の兵は敵の数と練度によって十分に援護が出来ず拮抗させることが精々であった。
「なるほど、ここらが君らの実力ということか。であれば戦いごたえがあるというものだ!」
リュスタル卿はそれでも敵兵を寄せ付けない。リュスタル卿の剣から放たれる斬撃は刀身のみならず間合いの一回り、二回り先をも斬り裂き、その剣圧は魔力を帯びて波のように敵兵を退ける。それでも敵は減るどころかより数を増してリュスタル卿を打倒せんと襲いかかってくる。
連合軍は進軍速度を重視したため十分な補給路もなく敵軍と比べ少数で兵力差もあった。時間を掛ければ敵の足止めは出来る反面で確実に兵力は削りきられる。
「ここより東への進軍は望めんか。ならば、全身全霊を以て確実にこの砦は奪還する!」
「私より前へ出るなよ!」リュスタル卿はそう言うと周囲の敵を斬り伏せると大きく剣を構え直した。
「蒼銀の光よ、闇を闢き、敵よ闢け、この剣は彼の王と共に深淵を越えしもの─
リュスタル卿がその蒼銀に輝く剣を振り下ろそうとしたその瞬間──。
「それを出されては応えねばなるまい!!」
凛々しき声が何処からともなく聞こえた刹那、一つの影が突如としてリュスタル卿前へと躍り出た。リュスタル卿の剣技はその何者かの剣によって抑えられた。
刃を交えながら正対すると相手は言った。
「名乗りもなく飛び出したことを詫びよう、レガリアの騎士よ。僕はエキザム、崇高なるマヤリスの騎士、アルバフロスに咲く一凛の花!高名たるレガリアの騎士リュスタル卿!是非とも私と勝負して戴きたい!」
その騎士は口調凛々しくも滔々と捲し立てながら一撃二撃と剣を振るうと「そしてこの砦を返す訳にはいかないな!」と三撃目へと踏み込んだ。リュスタル卿はいずれも剣でいなし、三撃目を斬り結び騎士を撥ね退け互いに間合いを取った。
「ほう、アルバフロスにもいるものか。そういう騎士が。声からするに女か?大したものだ」
リュスタル卿が構え直すとエキザムと名乗った騎士は
「さぁ、どうだろうね。性別など些末な問題だ。それとも僕が女だと答えれば手加減してくれるのかな?」
鎧の中からそう言われたリュスタル卿は「その剣を受けてはそうも答えられんな」と返すと「光栄だ!!」とエキザム卿は飛び掛かる、リュスタル卿もそれに応え前へと出る。
リュスタル卿の斬撃の波をひらりと交わしエキザムは懐へと真っ直ぐ入り込んでくる。リュスタル卿は軌道を読んでそれを弾く。
お互いの斬撃をいなし、打ち込み、リュスタル二人の激しい剣撃は魔力と未知の力が放つ光を散らしながら暫く続いた。
「良い!良い剣だ!これがアブグラムの闇を潜った騎士の力か!哀れなる異教の騎士にして置くには惜しい人材だ!」
「悪いが国名は変わったんでな!その剣、悪しき侵略者にしておくには惜しい人材だ」
リュスタル卿は再び剣を構えた。
「蒼銀の光よ、闇を闢き、敵よ闢け、この剣は彼の王と共に深淵を越えしもの─」
エキザム卿もそれに応じて剣を構え直す
「ああ、いいだろう。もう周囲の庭師に気を回す必要もない。受けて立とう!「凛として剣の如く、仄暗き世界にこの一輪を飾ろう。黎明の空に花開く、君のために──」
二人の騎士が果たし合う中、連合側はリュスタル卿が抑え込まれ徐々に圧され始めていた。
「まずい、このままではジリ貧だ。リュスタル卿が消耗してはこの敵勢を前に攻略は難しい……」
レーヴェンハイト卿は一瞬の激しい葛藤に襲われたが、騎士の矜持よりも一刻も早い砦の奪還を優先すべきと判断し辛くも周囲の敵を倒すと、まさに熾烈な戦いを繰り広げる只中に飛び込んだ。
「これ以上リュスタル卿の邪魔をすることは許さん!無礼ながらこの身を賭してでも通してもらうぞ!!」
今まさに至高の戦いに興じていたエキザム卿はレーヴェンハイト卿の横槍に不快感を顕にして兜の下のその端正な顔を顰めた。
「なんと無粋な!その愚行は赦されない!」
その標的は怒りと共に瞬時に向かってくるレーヴェンハイト卿へと向いた。
『凛々華麗!スプレンディッドギャラン!!』
「いかん!!」
エキザム卿の剣から放たれる青紫の光は花弁のように散ったその刹那その姿はそこにはなく、瞬時にレーヴェンハイト卿に肉薄しその剣は彼の胸を貫かんと突き立てられていた。その間合いと目にも留まらぬ瞬速にレーヴェンハイト卿には抵抗する間などなかった。
「──ッ!!」
レーヴェンハイト卿は死を覚悟した。
視界も思考もがスローモーションのように見える。死の瞬間というものは斯くも遅く静かなものか。こんなにも遅く見えるのなら避けられようものだが、彼の身体は動かない。
そして一瞬気を失ったかと思うとレーヴェンハイト卿は意識を取り戻した。
死んだのか、否。
痛みはあるか、否。
何故。
脳が一切を理解するのに時差が生じる。
その一瞬の出来事を脳が処理した頃にレーヴェンハイト卿は理解した。
レーヴェンハイト卿の目の前にはリュスタル卿が、いたのだ。
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