7節【出立】

7節【出立】


 明朝、支度を終えた王がシュピーゲル卿と共に屋敷を出ると、ラピスが駆け寄ってきて「おはようございますきれいな王様!角の騎士様」と元気よく声をかけてきた。難色を示す護衛に王は待つように命じた。

「ああ、出迎え大義である。早いのだな」

「そうなの!これを王様に渡したくって!」と少女は指輪を差し出した。美しい宝石が埋め込まれ、細かな彫刻が施された小さな指輪には細い鎖が通っている。

「これを俺に?」

「ええ、そうよ!昨日父様が王様に献上っていうのかしら?それを見てて私もって思ったのよ!」

王は困惑した様子で「しかしこれはお前のしていた指輪であろう。大事なものではないのか」

そう尋ねるとラピスは満面の笑みで答えた

「そうなの!お母様がくださったとっても大切なもの!大切なものだから献上するの!ゾリダーツを救うために来てくれた勇敢なお方だもの。それに、昨日の夜王様たちが聞かせてくれたお話とっても楽しかったわ!とくにシュルフトウルドのお話!私の大事な指輪にそんな冒険とその先にあるものを見せてあげたいの!きっと王様はこれからたくさん冒険をするのでしょう?私はこの街を出られないけれどこの指輪を旅させてあげたいのよ!」


「そうか」と王は一言返事をするとその指輪を受け取り

「では、これは借り物としよう。俺がこの戦を収め幾多の冒険を経た暁には様々な風景を見てきたこの指輪もお前に返す。そしてラピス、その頃にはお前がこの指輪の軌跡を辿り冒険をするのだ。俺が歩む道を後からついてくるがいい」

そう言うと指輪を首に着け、ラピスの頭に手をおいた。

「素敵だわ、素敵だわ!私その時をとっても楽しみに待っているわ!きれいな王様!」

ラピスの笑顔を背に王は兵が集う城塞の門へと向かった。


レガリア軍とノルデンシュタイン軍は先刻の軍議決定どおりに再編成され一同に会し、それぞれの陣営の主だった諸侯らの言葉、ノルデンシュタインの主フェルゼンハルトの言葉を経て最後にSYUU王が登壇した。

「これより我が軍はこの地ノルデンシュタインの軍と共に二手に分かれ、アルバフロスの侵略の阻止に当たる。予想される接敵まで猶予があろうと油断はするな。ここより先は戰場であると心得よ。わが初陣、即ち我が名をノルンに轟かせる大いなる勝利に皆一層努力せよ!」

王の激励にレガリア軍だけでなく、ゾリダーツに属するノルデンシュタインの軍までもが声とともに拳を天に突き上げた。


昨夜まで重ねられていた軍議の結果、編成は王率いる本軍にシュピーゲル卿、バルシュティン卿、ライズフェルド卿などを始めとする騎士らが首都ユーヴェルボーデンへと向かい、一方の軍はリュスタル卿の指揮のもと、レーヴェンハイト卿、シュスター卿、ノクシェ卿などが選出され、ノルデンシュタインに残存する兵と共に北部に留まり防衛することとなった。


 

出陣の間際、王は分軍の主将となったリュスタル卿に見送られた。

 「王よ、その指揮を直接お目にかかれぬは残念ですが、その勝利を私は確信しております。

シュピーゲル卿、王の守護の務め必ず果たせ。レガリアの枢機、我が王SYUUと誇り高き我らレガリアに勝利を。ジークレガリア」

「このシュピーゲル、騎士の名に賭け命に代えてもその務めを果たす所存です」

シュピーゲル卿はそう返答し、次に王はリュスタル卿を見やる。

「俺も間近で卿の武勇を見られぬのは惜しいが、それは次回にするとしよう。北方は任せたぞ。リュスタル卿」

剣を立て敬礼するリュスタル卿に王はそう言って馬に乗り陣を後にした。


「どうか、どうかご無事で、我が王SYUU。ヴェーグ王より任されし、もう一人の我が子の如き偉大なる御方。どうかその身に何者の矢も刃も届かぬよう」リュスタル卿は軍を見送りそう呟いた。

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