3節『出陣』
三節『出陣』
王の初出陣の朝、朝日が差し込む王の間にはSYUU王とシュピーゲル卿の姿があった。
「いよいよ初出陣ですね。王よ」
シュピーゲル卿がそう言うと王は「ああ」と返事して壁に掛けられた誓剣を持ち上げると「これが使われる日が来たのだな」と呟いた。
「それには及びません。此度はリュスタル卿やバルシュティン卿も先陣へ赴きます。無論私も。王が剣を抜くより先にアルバフロスは軍を引くことでしょう」
その言葉を聞くと「それではあまり初陣としての面目が立たぬではないか」と王は口を尖らせて言った。
「お気持ちは分かります、しかし、王に剣を抜かせぬようにするのが我々騎士の務めなれば、騎士の心も汲んでいただきたく存じます。そして、我々騎士が王の剣、王が振るう指揮は剣そのものなのです」
「なにやら言いくるめられている気もするが、まぁいい。此度の戦にもその働きを期待しているぞ。シュピーゲル卿」
「はっ」シュピーゲル卿は返事をすると、真面目な顔つきで「王の初陣、慣れぬ戰場で儘ならぬこともありましょう。努々油断召されぬよう」と言った。
「ああ、俺も王として最大の務めを果たすさ」王はそう言って朝の清々しい空気を吸い込むと「そろそろ往くか」と兵や領民が集まる演説の場へ赴いた。
王はテラスへ立つと集まった者に対して挨拶をすると本題へと入った。
「東のアルバフロスがとうとうノルン地方への侵攻を開始した。敵は東の山脈を越え、或いはクラール川に沿って現在はゾリダーツ、クラールシュタット、シュミーヒェンから成る連合軍と戦闘中だ。我らレガリアはゾリダーツの支援要請に応え、此れより出陣する。それこそが、王自ら戦場へと赴く初の戦となる。
此度の戦、敵は大規模な軍を率いて連合国は疎かその先にあるノルン地方全体を飲み込むつもりで侵攻してきている。現に連合国は今現在敵に圧されている厳しい状況だ。であるからこそ、此処より東の不動の鉱石たるゾリダーツがレガリアへ助けを乞うている。
この戦に連合が敗れれば東部だけでなくノルンの地は異郷の者に踏み荒らされ、街は陥る。民は死に、彼らの謳う神とやらに魂を縛られる。無論それは我らレガリアも例外ではない。諸君、此のような蛮行を見過ごして良いだろうか。己が領土ばかりに気を取られ、ノルンの多くを失っても良いのか。
否、断じて否である。彼の鉄の壁と称された山脈アイゼンヴァンドは異郷より来たる侵略者を跳ね除ける我らが鋼の意志そのものである。
諸君、此度の戦はゾリダーツのみの為に非ず、レガリアの、ノルンの地を守る正義の戦いと心得よ。ゾリダーツを祖国のひとつと思え!さすれば、彼の宝石たちの輝きは、諸君らを照らす光となろう。
戦況を間近に見て怯む者もいるやもしれん。だが、憂うことはない。我らレガリア人は先代ヴェーグ王が成し遂げた深淵をも踏破する力を有しているのだから。そして喜ぶがいい。此度の戦は王たる俺が出陣する。無論。彼の英雄である騎士も諸君らと共に大いに武勲をを立てるであろう。諸君も我が指揮のものと存分に戦うと良い。
レガリアに生きる勇敢なる者たちよ、この戦を以て、我らレガリアの力をノルンの諸国、そして侵略者共に知らしめる好機とする!
此の戦の勝利によってノルンはレガリアに称賛を送るであろう!此処に深淵の祝福を、我らに勝利を!ジークレガリア!!」
王の演説に兵の指揮は高揚し、勢いそのままにレガリア軍はノルンの東部、ゾリダーツ公国へと進軍した。
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