7節【レーカプフにて-鹿頭城-】

7節【レーカプフにて-鹿頭城-】


 グローザヒルシュの領を攻略したことでヒルシュ城から名を変えた鹿頭城(レーカプフ城)にてSpiege1卿とリュスタル卿は帰城を前にして杯を交わしていた。


「鏡の騎士、やはり鏡より来たりし騎士、というだけではなかったか」


「無論です。ですが、それを敢えて口にするものでもありません」


「戦果で示すのみか、それも結構。卿の見事なる初陣。その勝利に改めて感心した」


「恐れ入ります。しかし、あとから見れば最善を尽くしたとは言い難い」


シュピーゲル卿は表情こそ変えぬものの少し残念そうにそう言った。するとリュスタル卿は不思議そうな表情を浮かべ問う。


「何を憂うことがある。戦況を覆し、そのうえで領土拡大までもこうして成し遂げたというのに」


 Spiege1卿は鏡の権能を行使して魔術を相殺することも可能であった、しかしその場でその手段を選ばなかった。反乱分子に対する嫌悪感と罰せねばという責務がその選択をしたのだと述べた。リュスタル卿は「そうか」とだけ言って酒を含むと


「私は卿のような力はない、が、同じ身であったのなら同様にしたろうよ」と静かに答え「それよりも」と続けた。


「今回は槍を振るっていたな。確かに見事な槍さばきであったが、手合わせした感触で言えば卿の得物は剣ではなかったか」


 リュスタル卿は興味深そうに、そしてその奥に真剣さを忍ばせながらそう尋ねると

「ええ、仰るとおり。我が槍は剣にそう劣るというものではありませんが、私の得物は剣です。しかし此度はまだその時ではなかっただけのこと」

そう微笑み答えた。


リュスタル卿はははと笑い


「あれでもまだ全力ではないと。恐れ入った」

と酒を煽った。シュピーゲル卿はその空いた杯に酒を注ぎながら


「とんでもありません。以前もお話したとおり、元が反乱軍とは言え戦う相手に手抜かりがあってはいけません。ですが、剣を抜く必要がないのであればそれに越したことはありません」


そう静かにそして確かな意志を持った声で言うシュピーゲル卿の酌にリュスタル卿は満足そうに黙って杯を傾け注がれる葡萄酒に目を落としていた。


 二人の前では暖炉に焚べられた薪がぱちぱちと音を鳴らしながらその燃ゆる炎が暖かく二人を照らしていたのだった。


 こうしてガルテンシュッツの反乱に端を発したヴェストフレッヒェン王国を巻き込んだ継承戦争はレガリアの勝利で集結し、シュピーゲル卿の初陣にて収められた勝利は「鏡の奇跡」と讃えられ「ニードリガーハーズンの戦い」や「ヤークトヒルシュ」(鹿狩りの戦い)として記録された。後のレガリア継承紛争である。

 

 驚くべきは、鏡の騎士の強さだけではなく、賢者ヴィーサスが密かに予言したものと一致していたことであった

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