6節【ニードリガーハーズンの戦い(Ⅱ)】
「シュピーゲル卿、さらに追撃しますか。今が勝機かと」
「いえ、待ちなさい。これは──」
そう歩み寄った騎士と二言三言交わしていると、天の一部が光り、そこに歪みが生じた。
それは魔術によるものであった。攻めきれないことに業を煮やした後衛部隊が大規模な陣と詠唱による魔術を行使したのである。
6節【ニードリガーハーズンの戦い(Ⅱ)】
「ほう、このような術を使える者があちら側にいようとは…」
魔術の前兆を見た兵たちは前を逃げる敵兵同様に反転し各々走り出した。
鏡の騎士は静かに馬を降りる。
「嘆かわしい」
そうひとこと呟いた。
「シュピーゲル卿、あれは強力な魔術です。早く退避を!」
「それには及びません」
騎士の忠告を制し手を空間から現れた巨大な火球へ向けて翳す。それと同時にシュピーゲル卿の角、鏡晶角から僅かに橙光が放たれる。
「ウルドの祝福を否定した貴方がたがこの規模の魔術を行使しようなどとは…」
魔術陣が臨界に達し火球は速度をつけてレガリア軍へと目掛けて空気を喰らい轟々と赤い光を放ちながら綺羅星が如く落下する。
「恥を識れ」
シュピーゲル卿がその言葉を発した刹那、大火球の前に同等の大きさの透明な板が出現しその巨大な火の塊を映し出す。そう“鏡のように”
火球が鏡と接触すると同時にそれは真反対へと方向を転じた。
角度のついた鏡は火球を撤退する敵の向かう先、魔術の発生源、反乱軍の後衛の陣に向いていた。その方向へと反射した火球も墜下する。空気と地面を焼き食いながら地へと接すると強い光が発せられ轟音が鳴り響いて、同時に土煙が巻き上がった。
その火球魔術を弾いたのがシュピーゲル卿の力によるものであったことに周囲にいた兵士たちが気付いたのは事態から数秒後のことであった。状況を理解した者から次々と驚嘆と歓声が巻き起こり逆に撤退先を失った敵兵らは散り散りとなった。
「斯様な義のなき攻撃など、このシュピーゲルには通用しない。さあ、今が好機。各位兵を統率し追撃に向かう!ヴェーグ王の深淵歩きの偉業、ウルドの祝福による魔術を反乱に用いた罪に制裁を!」
その一声に兵は再び集結し、その勢いのまま敵陣を壊滅させ領境を越え夕刻にはグローザヒルシュ領の城塞へと迫ったが、現存の兵站と兵力では攻城には至らぬと判断した諸侯は日没と共に一旦拠点としているレガリアの城塞へと帰還した。
シュピーゲル卿はその晩にはエライヒェンの王城へと帰城していた。突然の単独帰還に城にいた者は喫驚した。戦の報告より前に大后や臣下からはその事情を問われたシュピーゲル卿は認知が及ぶ鏡であればその鏡と鏡の間を渡り移動する事ができるという権能について陳じ、続いて戦果報告を行った。
反乱勢力の本隊の壊滅的な打撃が与えられたことを知ったリュスタル卿はエライヒェンへの陽動の線はないと判断し自らも出陣すると決定した。シュピーゲル卿は興味津々な面持ちで質問を投げかけてくるノクシェと再度帰城した際に権能について語ることを約束し、大后に挨拶をして早々に国境付近へと戻っていった。
それからのレガリア軍の行動は迅速なもので、数日のうちに増援を擁したリュスタル卿がシュピーゲル卿の軍と合流し先日の戦の勢いそのままにグローザヒルシュの城塞の防衛を瞬く間に突破し城塞へと攻め入り此れを攻略するに至った。
勢いに乗ったレガリア軍はさらに三ヶ月にわたって侵攻を進めた後、ヴェストフレッヒェンに属する領地の割譲とクレーベ王送還の身代金の提案をヴェストフレッヒェンが飲む形で停戦が結ばれた。
こうしてレガリアは反乱分子を討伐に成功し、加えてヴェストフレッヒェンの辺境騎士であるグローザヒルシュを討ったことで占領されたレガリア西南部の奪還とグローザヒルシュ独立領土を含むヴェストフレッヒェンの土地と多額の資金を新たに獲得することに成功したのだった。
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