6節 【ニードリガーハーズンの戦い(Ⅰ)】
6節 【ニードリガーハーズンの戦い(Ⅰ)】
三日後の午前、鏡の騎士シュピーゲルは第一に聖堂にて王大后の立会のもと改めて王との契約を交わし、そして第二に臣下や他の騎士の見守られる中、同じく大后フィシュカによって鏡の騎士を王直属の近衛騎士として叙任した。その場では先日模擬戦での勝利やリュスタル卿と渡り合った影響もあり、その叙任に意義を唱える者もおらず、鏡の世界より来たりし騎士はレガリアに迎え入れられた。
後日、そう時を待たずしてシュピーゲル卿の初陣の機会が訪れた。
ヴェストフレッヒェンと反王権の残存勢力が反乱により獲得したレガリアの西南に位置するヒューゲルガルトへ再度集結し、ヴェストフレッヒェンと同盟関係にあるレガリアと隣接したグローザヒルシュ独立領と合流し勢力の回復と拡大を計ったのだ。
先の戦いで深淵に至った騎士の一人であるネーパスを打倒したことやレガリアを超えて近隣小国や独立領地に及ぶウルドの祝福の影響も相俟って対抗の意志は潰えることなくレガリアに再度侵攻することとなったのだ。
その年の初冬、グローザヒルシュ、ガルテンシュッツを旗頭とする軍によるレガリアの西南端部に位置する城塞への攻撃によって両陣営は再び交戦状態へと突入した。
ヴェストフレッヒェン、グローザヒルシュ、ガルテンシュッツの連合軍の鎮圧に抜擢、任命されたのはシュピーゲル卿であった。
前回の反乱の一件から西南部の戦線が陽動であることを警戒したライズフェルド卿はリュスタル卿をエライヒェンへと残し、シュピーゲル卿に兵を与え討伐へと向かわせたのである。
シュピーゲル卿が借り受けた兵力は千五百程度で、それを案じたリュスタル卿はさらに五百の兵を与えることを提言した。シュピーゲル卿は直轄領から兵を出すことを憂いたが、リュスタル卿の好意を無下にすることはせず二百の兵を借り受けた。
兵を纏めエライヒェンを出たシュピーゲル卿を率いる軍勢は千七百程で、さらに途中で他の騎士と合流し国境へと赴く手筈であったが、リュスタル卿の軍の到着を期待していたレガリア領の辺境の騎士らはライズフェルドからの書状を読むも現状戦力と突如台頭した鏡の騎士という者に兵を貸すことを渋る者も少なくなかった。
四日程経過した夜明け前に要塞へと辿り着いたシュピーゲル卿率いる軍は二千五百程度で想定よりも少ない兵力であった。対する連合軍は四千人程擁しており、城の兵力と併せても人数不利は目に見えた状況にあった。
前線の状況は後退しており、敵の軍勢は城へと迫っている最中であった。シュピーゲル卿は入城すると領主や騎士と挨拶と戦況報告を交わし、早速出陣可能な兵を束ねた。
「諸君、ここまで良く戦線を維持した。が、知っての通り戦況は有利とは言えないだろう。我らがレガリアに反旗を翻した者はグローザヒルシュの援護もあって先の戦より勢いづいている。ここで城をひとつでも陥とすようなことがあれば、我らが王の、レガリアの、そして諸君らの沽券に関わるだろう。ですが心配はありません。この反乱を鎮圧し、勝利の報せをエライヒェンに届け、レガリアの真の王が誰であるかを、このシュピーゲルが諸君に勝利を以て証明しよう!」
招集された兵から鬨の声が挙がるとシュピーゲル卿はそれらを引き連れ朝日と共に城塞から最も近い陣へと赴いた。
拠点へ詰めていた兵たちを同様に激励し、進軍を続ける反乱軍を迎え撃つ形で戦闘は始まった。
「エライヒェンをひと度陥とし王の威光を遮らんとしたその罪は重いと知れ!」
そう言い放ちシュピーゲル卿は先陣をきって馬を走らせ先鋒と衝突した。
交戦開始するや否やその槍で敵の騎兵を馬上から次々と叩き落として歩兵を蹴散らし、瞬く間に反乱軍の前衛部隊は壊滅に追いやられた。鏡の騎士の怒涛の勢いに兵の士気はあがり、レガリア軍は崩壊した前衛を追撃せんと進軍し、いよいよ本隊と正面衝突した。人数不利は覆せないものの、シュピーゲル卿とそれに続く兵らの善戦によってレガリア軍はじりじりと反乱軍の戦力を削っていった。
前日までの戦闘で優勢であった連合軍が困惑し浮足立っていることを察知したシュピーゲル卿は勢いそのままに敵本隊を割って入り、存分に槍を振るい、反乱の首魁であったガルテンシュッツとの一騎打ちにも傷を負うこと無く見事勝利した。その様は外套を翻したと共に彼のガルテンシュッツが宙を舞ったと言われるほどである。
此れによって敵本隊はいよいよ瓦解しはじめ、敵軍は総撤退を開始した。
劣勢を覆し勝利を確信した事によりレガリアの兵士たちは歓喜した。しかし敵兵らの背中を見据えるシュピーゲル卿の表情は晴れやかなものではなかった。
「優勢は崩せた。が、数の利は未だ覆せてはいない。持久戦であればあちらに分があった筈…であれば……」
「シュピーゲル卿、さらに追撃しますか。今が勝機かと」
「いえ、待ちなさい。これは──」
そう歩み寄った騎士と二、三言葉を交わしていると、天の一部が光り、そこに歪みが生じた。
それは魔術によるものであった。攻めきれないことに業を煮やした後衛部隊が大規模な陣と詠唱による魔術を行使したのである。
「ほう、このような術を使える者があちら側にいようとは…」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます