3節「碧紅の竜-契約-」



 王が深淵歩きの末に遂に辿り着いたのは人の姿無き地の底に沈んだ美しき純白の都であった。一行はその巨大な門へとその神秘へと誘われる様に足を進める。


 巨大な門を潜ると眼前に広がる光景に王らは目を輝かせた。大きく奥へと伸びる一筋の街路。その左右に広がる街並。

 

 そこにはアブグラムとは異なる建築様式の建造物の数々とそれらを構築する白く滑らかな石材に施された緻密な彫刻。整備された路からは歩くたびに雫が水に落ちて反響するような玲瓏な靴音が響く。

 そしてその都全体が、月夜のような淡く薄青い輝きを放っていた。闇に沈んでいるとは思えぬその光景に、王と従者達は少年の如く喜び、そして何かを見つける度に息を呑んだ。

 かつて栄華を誇ったであろう美しい街のいずれの柱にも傷ひとつなく、人の営みの痕跡も見当たらない。まるで、触れることすら許されぬ女神の彫刻か神に忘れ去られた都の様であった。

 

 長く伸びた道の最奥には巨大な礼拝堂のような建物があり、他の建築物より一層の清らかさを放っていた。


 同行した騎士がその身の丈の数倍はあろうかという巨大な扉を数人がかりで開け放つと、その奥には巨大な碧紅二頭の竜が左右に鎮座していた。


二頭の竜は王の深淵到達を称えた。

赤き竜は永遠の命を宿す血を流し、その雫を王へと分け与え

碧き竜は力と叡智の紋を授けた。

さらに竜は、深淵の神秘を分け与えると約束した。



「小さきものよ、授けた命を絶やすな。

我らが血が途切れ、鏡が其の世界を映さなくなったとき契約は終え

我らこの地に戻り世界を焼き尽くそう」

──そう言い残すと姿を消した。

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