火神と愚かな贄

 偽教授さん主催の自主企画・偽教授神饌杯(神に食べ物を捧げる描写が出てくる物語の祭典)ともももさん主催の自主企画・もももの庭の物語(もももさんの提示するキーワードを使用してBLかブロマンスを書く祭典)に参加しようと思って書いた作品です。選択キーワードは『神』と『生贄』でした。


 ◆タイトルとコンセプト

 2つの自主企画のレギュレーションに反しないことと、ブロマンスを書くことに注力しました。

 浅学なもので「神饌って何……?」っていうレベルから始まりました。

 併せて普段男女バディばかり書いているのでブロマンスの勘所が分からず、たっぷり1ヶ月近く悩みました。書き終わった今もこれで良かったのか分かりません。

 しかし苦手なことに挑戦するのって楽しいな、とも思った作品です。


 どんな神とその食べ物にしよう、と考えたのですが、普通に生贄を出してくる人はいると思ったので、変わった物を食べる神様を探しました。


 最初は『次の千年先も、神様といっしょ』というタイトルでしたが、可愛すぎて内容と合わないので変えてます。ブロマンス縛りがなくジャラルが幼女だったらそうなっていたかもしれません。



 ◆キャラクター

 メインキャラその1の火神アグニ

 インドの奥地にて護摩焚きを行っていた密教徒の祈りを糧に生まれました。拝火信仰では火の神(アグニであったり、そうでなかったり)に一切の俗物を投じて悟りの境地に至ろうとするそうで、本来は彼らもその神に祈りを捧げていました。

 しかしあらゆる煩悩を投じた結果、本来の火の神ではない何かが生まれてしまい、密教徒達は食い散らかされます。

 ので本当の意味では彼は火神ではありません。

 名前を持たない生まれたての神は、己をどう認知するのかと考えていたのですが、やはり崇める側がどう呼んでいたかによるのかなと思ったので火神としています。


 後の世に仏教の守り神とされる天部八人衆の迦楼羅天と呼ばれることになる。と設定づけてますが、改変歴史小説でどこまで改変して良いかヒヤヒヤしながら書きました。

 ちなみに迦楼羅天は煩悩を焼き払う炎を携える霊鳥で、不動明王の背中の炎は迦楼羅天のものとされています。

 不死の聖水アムリタの持ち主ともされているので、物語の進行のため「本当は迦楼羅天」という設定にしています。ジャラルが生き延びないエンドだったらこの設定もなかったと思います。


 メインキャラその2はジャラル。

 20代前半の夢いっぱい煩悩いっぱいのクルド人青年です。クルド人はイスラム教スンニ派の民族です。

 イスラム教って戒律が厳しいイメージですが、結構住むところにより千差万別で男性が髭を伸ばしていなかったり、女性がヒジャブを付けていなかったりと緩い地域もあります。

 とりわけ中世のクルド人は戦闘民族で有名で、男女を問わず馬に跨り戦地を駆けることもあったようです。

 ジャラルは戦闘民族としての誇りもないのでよく逃げ出していたようです。

 火神の生贄を回避するために煩悩生産機となりますが、彼自身は息を吸って吐くように煩悩を抱くため特に苦には思っていません。

 あまり思い悩まないので不老不死の苦悩も薄いです。苦悩を抱いたとしても火神が食べるのかも。それはそれで優しくも残酷だと思いますが。

 戦争の後、火神と2人で世界各国を旅し全大陸を制覇します。歩き尽くした頃には時代が変わっているので、飽きずに美女の尻を求めて旅し続けられるようです。


 クルド人っぽい名前を調べていて、最初は「アラン」にしようかと思っていたのですがさすがに格好良すぎるので、煩悩に塗れてそうな響きの「ジャラル」にしました。



 ◆本文

 ブロマンス書き1年生なので、どうやったらカタルシスを得られるか凄く悩みました。2人で困難を乗り越えるのは男女バディと変わらないはずなんですが……。

 良くも悪くも戦争の経過とキャラクターの動きだけで話を進めたので、ストーリーラインはあまりカッチリ作りませんでした。

 ラストもワールドカップを観ながら思いついたので、それが無ければジャラルが死んで火神がその面影を追うエンドもあったのかなとも思います。



 ◆舞台・その他設定

 12世紀の第3回十字軍がモデルです。

 十字軍のことを簡単に言うと、エルサレムを聖地とするキリスト教とイスラム教が揉め、取り合いになった戦争だと思っていただければ。

 何回にも渡り両者は戦争を続けるのですが、そのうち最も規模が大きく派手だったのが第3回のものでした。

 キリスト教勢力からはなんと、イギリス・フランス・ドイツの各国王が参戦します。聖地を治め、西側諸国を迎え撃ったのは当時イスラム世界でスルタンを務めていたアイユーブ朝のサラーフッディーン(サラディン)です。

 これまでにない大規模軍勢に西側諸国の優勢かと思われたのですが、聖地に向かう途中でドイツ国王が事故死したり、残されたイギリス国王とフランス国王が仲違いしたりして、結局聖地に着いた頃にはイギリス軍だけになっていたそうです。

 サラーフッディーンも名将と言われるだけあって猛攻を退け、遂に聖地防衛に成功します。

 聖地エルサレムを目の前にして敗走しなくてはならなくなった悔しさから、イギリス国王のリチャード1世(獅子心王)は手に入らなかった聖地を視界に入れぬよう、盾で隠したのだそうです。


 ……という史実をどこまで改変するか悩み、結局ほぼそのまま使用しました。

 どの知識も高校時代に世界史の先生が話していた内容を思い出し、詳細はネットに助けてもらい書きました。

 改変歴史小説は当分書くことはないだろうな、と思います。下調べが大変なので……

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