第3話︰血の匂い

村を飛び出して二時間後、少女の姿をした悪魔を連れて、私は森の中を駆け抜けていた。


「ねぇねぇシファちゃん、これからどこに行くの?」


「…近くの村に寄って装備を整える」


私は一刻も早く、あの兵士達を根絶やしにしなければいけない、必ず、絶対に、お姉ちゃんの仇を討つと決心したんだ。


「…!!」


真横から黒い何かが飛び掛ってくる、黒い何かは私の事を押し倒し、地面に押さえ付ける。


「ありゃりゃ…大きな狼だねぇ…」


グレモリーがふわふわと浮きながらこちらの様子を伺ってくる、若干楽しんでいる様に見ているのが腹立たしい。


「…私は助けないよ?シファちゃん。」

「こんな所で狼に負けている様じゃ、あの兵士達には勝てないよ♡」


グレゴリーがそう言った瞬間、狼が私の首に噛み付いてくる。


「ぐッ…あぁ゛ぁ゛!!!」


鋭い牙が私の首元にぶすりと突き刺さり、噛みちぎろうと力強く噛み付いてくる。

...最悪だ、数時間前の軍人との戦闘で殆ど力が湧いてこない。



「がッ…うッ…はぁッ…はぁッ…」


身動きも取ろうにも両腕を狼の前足で押さえ付けられて身動きが取れない、正攻法では私は狼にすら勝てないのだろうか。


あの兵士達と戦えたのは、私の身体能力が悪魔の力で強化されていたから、しかし、この暗い森の中、動きを制限されては私には為す術が無い。


「シファちゃ~ん、がんばがんば~」


…ふと狼の身体見てみた、とても痩せている、この狼は飢えているのだ、厳しい自然環境の中、この狼は食べることが出来なかった、弱いこの狼は更に弱い私を襲っている、食わなければ、餓死するからだ。


私は今のままじゃ食われる、力を身に付けただけじゃ何も変わらない、今の私の考え方は、身体が弱かった頃の私と同じ、何も成長していない。


「…う゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!」


ごりっと鈍い音を立てながら、私は狼の顔に噛み付いた、狼は動揺して、私の首元から牙を離し、逃げようと足をじたばたさせている。


「…食うのは私た゛ァ゛ァ゛ッ!!!」












「ひぇ…シファちゃん…悪魔より悪魔だよぉ…」


グレモリーがぷるぷると震えながら私のことを見てくる、私はそんなグレモリーを見ながら、口元に付いた血を拭う。


「…ご馳走様」


狼の死骸を残して、私は街に向かって進み始めた。
















「…やっと付いた…疲れたぁ…」

「…貴方、ずっと浮いてただけでしょ…?」


【冒険者の集まる街】【トリトン】


この村は裕福な様だ、私の自然豊かな村とは違い、あちこちに人が居て、様々な店がある、これが都会というものなのだろうか…


首都までは長い旅になる、ここで装備を補給しなければならない。


武器を調達しようと武器屋に向かうが、そんな私の背中をグレモリーが引っ張って止める。


「シファちゃ~…お腹すいたぁ…」

「…」


そういえば、私も昨日から狼の生肉しか食べていない、人間らしくまともな食事がしたいという欲求に負け、グレモリーと共に酒場に向かう事にした。


「いらっしゃい!!…おや?見ない顔だね、旅人さんかい?」


ハゲ頭で特徴的な髭を持つ店の店長らしき人が厨房から陽気に話しかけてくる。


「…まぁ…そんなとこです。」


「そうかそうか!ま、好きなとこに座ってくれ!!」


グレモリーと扉の近くの席に座り、店の壁に直書きされているメニュー表を見てみる。


「…この店…全部料理名の後に…「ウルフ」が付くんだけど…」


私は嫌な予感がしながら、店長さんの方を見る。


「はっはっ!!うちは狼肉専門店だからね!!」


グレモリーがニヤニヤしながら私の方を見てくる、とても腹立たしい、少女の姿をしていなかったら、一発殴っていてもおかしくない。










「いいよね、狼」


「…ッ!?」


背の高い赤髪の女性が私の真横に立っている、いつの間に現れたんだろうか、全然気付くことが出来なかった…


「えっと…あの…」


「…狼からは血の匂いがする…誇り高く…気高い生き物…それでいて野性的…」

「君からも…血の匂いがする…」


赤髪の女性が私の事を指差す


「…なんの事かサッパリ…」


「…」


ぐいっと赤髪の女性が私の顔に顔を近付けてくる、何を考えているのか全く理解できない、この女性は一体…


「…!!」


私が返り討ちにした狼の生首を赤髪の女性が持ち上げる。


「…これ、知らない?」

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