第2話︰契約

「お~い..もしもし~...?」


ここはどこだろう、私は確か…炎の中に飛び込んで...いや、その前に...黒い本を手に取って...そこから...。


ふと辺りを見渡すと...何も無い、一面が真っ白、住民の死体も、燃えている家も、何も無い、ここが天国なのだろうか?きっとそうに違いない、私は死ねたんだ、ここが天国なら...お姉ちゃんが居るはず、探さないと...お姉ちゃ...


「ちょっとぉ!!無視しないでよぉ!!」


声が聞こえてきた方に顔を向けると、十歳位の女の子が目の前にいる事に気が付いた、身長は小さく、白いワンピースを着ている、腰まで伸びている黒髪が特徴的だった。


「むぅ...」


黒髪の女の子は頬を膨らませている、怒っているのだろうか、何故かは分からないが、私が彼女の事を無視し続けていたからかもしれない。


悪気があったつもりは無い、ただ、色々な事があり過ぎて、頭が回っていなかったのだ。


「やっと気付いたのね...ま、いいわ...」

「ねぇ、貴方...私と【契約】しない...?」


「えっ...?」


唐突に何を言い出すんだろう、そんな事を考えていた瞬間、唐突に息苦しくなる、何故だろう、息がしたくても出来ない...。


身体が震えている、私自身が何かに怯えているのが分かる、けど、何に怯えているのかは分からない、不思議な感覚だ、私はおかしくなってしまったんだろうか...と、そんな事を考えていた時、私が何に怯えているのかが判明した。


「あらあら...怯えちゃってかわいそ~...」

「私の名前は【グレモリー】序列56番目の【悪魔】」


唐突に黒髪の女の子の雰囲気が変化する、見た目は何も変わっていないのに、恐ろしい、恐怖で直視する事が出来ない、彼女は自分の事を悪魔と言っていた、悪魔がこの世界に実在するのだろうか。


...いや、そんな事はどうでもいい、私にはやるべき事がある。


「殺して...」


「んー?」


「悪魔なんでしょ...?私を殺してよッ!!」


ここがどこかも分からない、グレモリーと名乗る女の子の事も分からない、けど、私にとってそれはもう問題では無い、何故なら、私は早く死にたいから、お姉ちゃんの所に行きたいから、この世の事はどうでもいい、一刻も早く命を絶たなければ...


「んー...いいよ!!それが貴方の望みなら」


咄嗟にグレモリーが私の首を両腕で掴む、女の子とは思えない力だ、この子は本当に悪魔なのだろう、息が出来ない、苦しい、でも、我慢しなきゃ、そうしなきゃ...死ねない。


意識が途切れかかるその瞬間、グレモリーが私の首から手を離す。


「げほっ!!げほっ!!」


私は地面に崩れ落ちる。


「...殺してあげるのは良いけど...悪魔にお願い事をするには【代償】を払わなきゃならないんだよー?」

「それが【契約】のルール...おっけー?」


グレモリーが人差し指を上に向け、くるくる回しながら説明する、死ぬのにも、色々と準備しなければならないらしい。


はっきり言って面倒である、私は死にたいだけなのに。

...いや、いい事を思い付いた、これならさっさと死ねる。


「なら...私の命をあげる、その代わりに...私を殺して」


ぽかーんとした目でグレモリーが私の事を見てくる。


「えぇ~...何それ...ドン引きなんですけど...そんな願い事してきたの君が初めてだよ...シファちゃん...」


「...軽々しくシファって呼ばないで!!その呼び方をしていいのは...私の大切な人...お姉ちゃんだけ...!!」


もうすぐ死ぬって言う時に、なぜだろう、お姉ちゃんの事を思い出して悲しくなってしまった、それと同時に...私はあることを思い付く。


「...いや...待って...!!」

「お...お姉ちゃんを生き返らせて!!私の命をあげるから!!」


私は必死にグレモリーに懇願した、悪魔なんて非科学的な存在が居るんだ、私の命を差し出せばお姉ちゃんが生き返るかもしれない...だが、返ってきたのは残酷な返事であった。


「残念だけど、それは出来ない、人を蘇生することは...悪魔の力を使っても不可能なの、ごめんね。」


お姉ちゃんは生き返らない、たった一つの希望が無くなってしまった、所詮は悪魔、頼るのが間違っていたと後悔した、もう生きる事に未練は無い、命を差し出して死んでしまおう。


「...命が勿体ないなぁ...他にやる事とかないの~...?私は代償を貰えればそれでいいけど...つまんないなぁ...」


「うるさい...さっさと殺してよ...」


「好きな人と暮らすとか...美味しい物食べるとか...シファちゃんは病弱なんだよね、なら、元気な身体が欲しい...とかでもいいんじゃない?寿命を少し貰えればその位のことはしてあげるよ、お姉ちゃんが居なくても幸せに暮ら...」


「...もう黙ってよぉ!!!」


私はおそらく、この瞬間、人生で一番大きな声をあげた。


「...」

「...復讐...」


「...!!」


グレモリーが呟く。


「...復讐すれば?そんなにお姉ちゃんの事が大好きなら、お姉ちゃんの命を奪った奴らを殺しなよ、そして、その復讐を生き甲斐にすればいい...どう?」


私の心臓の鼓動が早くなる、私の大切なお姉ちゃん、大好きなお姉ちゃん、尊敬するお姉ちゃん、素敵なお姉ちゃん。


お姉ちゃんの最期の言葉が頭に響き渡る。




「シファ...愛してる...」




「...うっ...うぅっ...ひっぐ...」


「あらら...泣いちゃった...」


涙が止まらない、お姉ちゃんはもう戻って来ない、お姉ちゃんを奪った奴がいる、許せない、ふざけるな、殺す、殺してやる、全員だ、一人残らず、それだけの為に生きる、決めた、必ず、必ずだ。


考えているうちに、涙は枯れ果てた。


「...契約する、貴方の力を頂戴...」

「代償は...【私の命】...この復讐劇が終わったら、私の命を貴方にあげる...!!」


グレモリーがにやりと笑う。


「おっけー♡」




















「ぐッ...やめ...ぐがァッ!!!!」


最後の兵士の頭を踏み潰す、これで全員殺す事が出来た。


「おつかれ~...いやぁ...凄いねぇ...肉体を強化しただけなのに...軍の兵士を全員殺しちゃうなんて...まともじゃないねぇ...」


言われてみれば...身体の調子が良い...咳が出ない、あれだけ兵士を殴ったのに腕が痛くない、とてもいい気分だ、兵士の返り血が生暖かくて気持ちがいい。


「...ねぇ、まだ復讐するよね...?」


グレモリーがふわふわと浮いて、私の耳元に語りかける。


「...私は...この国を滅ぼす...」

「村を...お姉ちゃんを...私から奪ったこの国を滅ぼしてやるッ...!!」


「ふふ...見届けさせてもらうね。」



闇に紛れて姿をくらませられるよう、死体から黒いコートを拝借して、身に付ける事にした。

目的地は首都、最短で向かえるよう、暗い森の中を進む。

私の復讐劇が幕を開けた。


















数時間後


「...ピエトロです!!ピエトロの死体ですッ!!」

「なッ...ピエトロが殺られたのか!?」

「有り得ん...あのピエトロが...」


軍人達が村の惨劇を目の当たりにする。


「...」


その場に、赤髪の女性が現れる。


「あっ...貴方はッ...!!」

「...兵士の中でも最も高い階級...【白銀】の称号を持つ貴方様が何故この様な所に...!!」



「...血の匂い..」

「まだ近くに居る...追うよ」



白銀【マゼンタ・スカーレット】


「..悪魔狩りだ。」

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