高所恐怖症を克服しよう

祝日。いつも通り、千夏さんの家があるマンションに着く僕。

エレベーターで彼女の家がある5階に着き、降りる訳だけど…。


実は、降りてから千夏さんの家に行くまでの渡り廊下が嫌いだ。

渡り廊下を通ると、どうしても外の景色が見えてしまう。


高所恐怖症の僕には辛いポイントなんだよね…。

なので下を向いたりして、何とか見ないようにしている。


千夏さんと一緒の時は、うまくごまかしてるつもりだけど…。

もしかしたらバレているかも…?


和人さんと千春さんは、高いところが平気だからマンションを選んだんだよね?

…その辺の話は聴いたことないから、雑談のネタにしよう。



 千夏さんの家に着いたので、玄関の扉を開けてリビングを目指す。


到着すると、千春さんは洗濯物をベランダに出しているところだった。

千夏さんは…、いないみたいだ。自分の部屋かな…?


「いらっしゃい♪ 玲君♪」

全て出し終わり、千春さんは笑顔で迎えてくれる。


「玲、来てたのね。気付かなかったわ」

そう言って、リビングに入る千夏さん。


「今来たところだよ」


「玲君が来るまでに、一通りの家事は終わったわ♪ いつでも良いからね♪」


早くもHのお誘いのようだ。嬉しいけど、忘れない内にあの疑問を訊いておこう。



 「千春さんって、高いところは大丈夫なタイプですか…?」


「どうかしらね? 他の人と比べることじゃないし…」


「玲。なんでそんな事訊く訳?」

千夏さんが指摘する。


「僕さ、高所恐怖症でエレベーターを降りてからこの家に向かうまでの渡り廊下が苦手なんだよ。外が見えちゃうからさ。だからマンションに住むと決めた千春さんは、高いところが大丈夫なタイプだと思ったんだけど…」


「そういう事ね…」

納得した表情をする千春さん。


「千夏さんはどうなの? 高さ、気にならない?」


「全然。生まれた時からここに住んでるから、今更って感じよ」


「玲君みたいに高さが気になる人は、ベランダに洗濯物は干さないでしょうね…」


やっぱりそうなるか…。高所恐怖症の人がマンションに住むとしたら、立地とか間取りとか家賃の問題になるのかな?



 「玲君。私と一緒にベランダに出てみない?」

突然、千春さんに誘われる。


「でも…」

5階って、結構高いし…。


「私がそばにいるから♪」


「じゃあ、少しだけ…」


そう言われて、僕と千春さんはベランダに出る。

スペースの関係上、千夏さんは厳しいので2人だけだ。


……渡り廊下で見た通り、高いよな~。地上の距離はどれぐらいなんだろう?


「玲君。下は見ちゃダメよ。正面を観るようにして♪」


僕の首の向きで分かったのか、千春さんが注意を促す。


彼女は僕の後ろに立ち、肩に手を置く。…とても落ち着くな。

気を抜くと「母さん」って呼びそうになる…。


「高いところにいる時は、遠くを見ると良いわよ♪ 遠くを見れば、下は見えないからね♪」


千春さんの言う通りだな。下を意識しなければ、このままのんびり眺めることができそうだ。


「…今はこれぐらいにしておきましょう。少しずつ慣れていけば良いから♪」


「わかりました」


まだ大丈夫だと思うけど、無理しないほうが良いのかな?

僕は千春さんの言葉に従い、再びリビングに戻ることにした。



 「玲、どうだった?」

戻って早々、千夏さんが感想を訊いてくる。


「千春さんが後ろにいてくれたから、落ち着いて眺められたよ」


「そっか。良かったじゃん」

微笑む千夏さん。


「また外を眺めたくなったら言ってね♪ 付き添うから♪」


「今度はアタシが付き添うわよ。遠慮なく言ってよね」


「そうさせてもらうよ」


2人の優しさに感謝しながら、リビングでゆったりするのだった…。

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