メーカー品の選び方

 下校後。いつも通り、千夏さんの家のリビングに向かうと…。


「千夏ちゃん。ついに電子レンジが動かなくなっちゃった」

キッチンにいた千春さんが、僕達のほうに駆け寄ってから言う。


「ヤバかったしね。よく頑張ったほうでしょ」


「電子レンジの調子悪かったの? 千夏さん?」

気になったので訊いてみる。


「うん。ここ数日使っても全然温まらないのよ。だからこうなるのはわかってた訳」


「なるほど」


「新しいのを買わないといけないわね…」

ため息をつく千春さん。


痛い出費だと思うけど、電子レンジは必須家電だよね…。


「玲の家は、どこのメーカーの電子レンジを使ってるの?」

千夏さんに訊かれる。


それ、気になる事かな?


「確か…、○○(メーカー名)だったと思う」

使う時にメーカー名をチラ見する程度だから、うろ覚えだ。


「ウチは△×(メーカー名)よ」


うろ覚えであっても、そのメーカーではないのはわかる。

僕と千夏さんは、別々のメーカーを使っているようだ。


「○○の電子レンジ、使いやすいかしら?」

今度は千春さんに質問される。


「さぁ…。他のメーカーの電子レンジを使った事ないですから…」

もちろん買い替えたことはあるけど、同じメーカーを使い続けている。


「何で?」

またしても、千夏さんに尋ねられる。


「知らないよ。そういうのに、僕は関わらないし…」


仮に両親に意見を求められたとしても、特に不満がなければ両親が選んで使っているメーカーで問題ないと思う。家電問わず、何であってもだ。


メーカー選びは、その家の歴史というか伝統かもしれない…。



 「次の電子レンジは、玲君のお家で使ってる○○にしましょうか」


「そうね」


千春さんの問いかけに答える千夏さん。


「家電ぐらい、好きな物を買えば良いのでは?」

無理して僕の家に合わせる必要ないでしょ。


「どうせ買うなら、玲と一緒のほうが良いわ」


同じなのはメーカーであって、機種は違うんだけど…。

でも一緒にすると聴いて、悪い気はしないね。


「早速、和人かずひとさんに仕事帰りに買ってきてもらうようにお願いするわね」

千春さんはそう言って、旦那さんである和人さんに連絡し始める。


それから数十分後。千春さんの携帯の着信音が鳴る。


「父さん、何だって?」

返信内容を確認する千夏さん。


「『構わないが、○○を選ぶ理由は何だ? 今まで買ったことないメーカーだろう?』ですって」


急にメーカーを変えたら、人によっては気になるだろうね…。


千春さんは素早く入力し始める。その後、携帯を置く。


「なんて返信したの?」


「『玲君のお家で使ってるメーカーだから』と説明したわ♪」


それから間もなく再び着信音が鳴り、千春さんは内容を確認する。


「『そうか』の一言だけね」


僕の家で使っていることが、説得材料になったの?

さっきの説明は、ほんの一部かもしれないな…。



 人生は選択の連続というけど、メーカー選びもそうだよな。

これからはじゃなくて、自分の意思で決めていこう。

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