あの本救出大作戦

 休日に、千夏さんの家に入って早々…。


「玲、ヤバい事になっちゃった!」


「玲君の意見を訊かせて欲しいの」


玄関先にいる千春さんと千夏さんが、僕に助けを求める。

行く時間はあらかじめ伝えてあるから、出迎えてくれたのか…。


それにしても、2人とも深刻な顔をしているな…。何があったんだろう?


「一体、どうしたの?」


「実は…」

言葉を詰まらせる千夏さん。


「うん…」

今の内に覚悟を決めておこう。


「エロ本が、引き出しに入りきらなくなったのよ…」


「…え?」

それがヤバい事なの?


「続きは、リビングで話しましょうか…」

そう言って、リビングに向かう千春さん。千夏さんも続いていく。


千春さんの旦那さんで、千夏さんのお父さんの和人かずひとさんにエロ本がバレないよう、引き出しに隠し続けているのは聴いている。


いずれ限界が来るのはわかっていたけど、ついにそうなったか…。

僕は拍子抜けしながら、リビングに向かう。



 「んで、玲。どうすれば良いと思う?」

3人がリビングのダイニングテーブルについた後、千夏さんが訊いてくる。


「どうって…、しかないんじゃない?」

原因はエロ本が多すぎるんだから、冊数を減らすしかない。


「そんなの無理! 絶対嫌!!」

千夏さんは断固拒否する。


「そうよ。私の可愛い男の娘を捨てるなんて…」

男の娘を知って以来、千春さんはハマっているようだ。


「でもエロ本ですから、本棚に入れるのは無理ですよね…」

そういえば、和人さんは千春さんのエロい趣味にどれだけ気付いているんだろう?


…気付いていないから、なんてことをするのか。考えるまでもなかったな。



 「玲。アタシ達が何とか片付けるまで、エロ本を預かってくれない?」

千夏さんにとんでもないことを言われる。


「嫌だよ! 母さんに見つかったら、何て言われるか…」

想像しただけで恐ろしい。


「見つかったら正直に『預かった』って言えば良いじゃない」


『このエロ本は、彼女と彼女のお母さんの物』って言うの?

そんなの、誰が信じるんだ?


「もし信じてもらえなかったら、私がちゃんと説明するから♪」

どうやら、千春さんがフォローしてくれるようだ。


「それなら…、何とかなるかもしれませんね」

もちろん、中身が見えないように工夫する必要はあるけど。


「だったら決まりね。玲、今すぐお母さんに連絡して!」


2人の力になりたいし、他の方法は思い付かないからな…。


「わかった。今すぐ連絡してみる」



 急用じゃないし、メッセージで良いか。内容は…。


『彼女と彼女のお母さんから、荷物を預かることになった。その荷物は僕の部屋に置くから、勝手に見ないでね』


こんなところかな。送信っと。


「一応、伝えておいたよ」

母さんの予定を聴いていないから、いつ確認するかはわからない…。


「ありがと、玲」


「さすが玲君。頼りになるわ~♪」


第一段階は終わった。次は…。


「エロ本を紙袋とかに入れないとね。大きいの、探してくるわ」

千春さんはそう言って立ち上がる。


「アタシも玲に預かってもらうエロ本を選ばないと…」

続けて千夏さんも立ち上がり、リビングを出る。


これから大量のエロ本を、持って帰らないといけないんだよな…。

力に自信ないから憂鬱だ。



 「玲君。お待たせ♪」

千春さんは大きい紙袋1つをテーブルの上に置く。


1つで良かった…。両手だったら、どれだけ大変か。


「玲。今回はこれお願い」

リビングに戻ってきた千夏さんは、10冊ほどのエロ本を持っている。


「今度は、私が玲君に預かってもらうエロ本を選ばないと…」

すぐさま、千春さんがリビングを出る。


できれば少なめでお願いしますよ。千春さん。


…すぐ戻ってきたな。紙袋を探している途中で、目星をつけていた?


「玲君。お願いね♪」

千春さんも10冊ほど持っている。


ってことは、合計約20冊か。普段の学校ぐらいの荷物量かな?


エロ本が揃ったことで、千春さんが紙袋に入れ始める。


「このお礼は、ちゃんとするから♡」

千夏さんが僕を見つめている。


どういう形なのかは、言うまでもない…。


「…あ、カモフラージュのこと忘れてたわ。どうしよう?」

詰め終わった千春さんがつぶやく。


「適当にタオルでもかぶせれば良いんじゃない?」


僕も千夏さんに賛成だ。手軽だし、大きさ的に隠しやすい。


「そうするわね。一番上に、ふわっとかぶせるようにするわ♪」


よし、これで中を覗かれてもすぐにエロ本とは思われない。


紙袋はリビングの隅に置かれた。帰る時、忘れないようにしないと。



 紙袋を持って帰宅した僕。すると、玄関で母さんに会う。


「それが、預かった荷物?」


「そうだよ。中は絶対見ちゃダメだからね」

一応、念を押す。


「わかってるわよ。…そこまで隠すのは、あんたの意思? 向こうの要望?」


難しいことを訊いてきたな。どちらかというと、僕の意思だけど…。


「両方だよ」

こう答えるのが無難だよな。


こうして、2人のエロ本は僕の部屋に置かれることになった。

いつどうなるかわからないから、早く片付けてね、2人とも…。

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