キノコですけど?

 担任の冬城先生が担当する現代文の時間。

僕と隣の席の千夏さんは、真面目に授業を受けている。


「…この問題を、佐下君答えて」


「はい…」


冬城先生は、規則的に指名して回答させる。縦列・横列が一番多いパターンかな。時々、月日の数字を元に指名することがあるから要注意だ。


今日は19日だから、出席番号19番の人はいつ当たるかヒヤヒヤしてるはず…。



 授業は中盤に入る。集中力が切れて、ダレてくる頃だ。

僕は千夏さんをチラ見する。


彼女は何かを書いている。…いや、描いているのか?

ペンの動かし方に違和感があるからだ。


指名される心配がないから、落書きして遊んでるのかな?

気にせず授業を受けるつもりだったけど…。


「…この問題は…、古賀さんに答えてもらおうかしら」

冬城先生が急に千夏さんを指名した。


何で千夏さんに? 規則性がまったくないじゃないか…。

…それよりも、千夏さんは気付いているかな?


僕はすぐ彼女を観たけど、気付いてない様子だ。

クラスメートも千夏さんを見つめ始める。


「千夏さん、当てられたよ」

小声で呼んで気付いてもらおうとするけど、気付いてもらえない。


彼女は完全に油断している…。どうすれば良いんだろう?


「…今村君。普通に呼んで良いわよ」

冬城先生が呼んでいる僕のほうを観る。


じゃあ、そうさせてもらおうかな。


「千夏さん!」

声のトーンを普段の時と同じにする。


彼女は体をビクッとさせた後、僕を観る。


「玲、どうしたの? 今授業中よ」


「…古賀さん。あなたを指名したけど、気付いてないわよね?」


「え? アタシを?」

ぽかんとした顔をする千夏さん。


「…妙に楽しそうに何かを書いていたから気になって指名したのよ。何を書いていたのかしら?」


冬城先生はそう言って、千夏さんの机そばに近付く。

その後、描いていたものを見つめる…。


「…これは何かしら?」


「キノコですけど?」

千夏さんは平然と答える。


一部のクラスメートがクスクス笑っているのが聞こえる。

キノコの意味に気付いた人だと思うけど、どうなのかな?


「…次当てるからちゃんと聞いておいて。さっき古賀さんに指名した問題は、今村君に答えてもらうわ」


「わかりました…」

とばっちりを受ける僕。


それからは真面目に授業を受けた千夏さんは、指名された問題を難なく回答した。

やればできるんだから、ちゃんとしてほしいよ…。



 現代文が終わった後の休憩時間、クラス委員長の田沢さんが千夏さんの席に近付く。彼女の性格的に、さっきの件は許せないはずだ。


「古賀さん、真面目に授業を受けてもらわないと困るわ! 他の人に迷惑をかけたじゃない!」


「ごめんって」

田沢さんが気に入らない千夏さんは、流すように答える。


「今村君。古賀さんはあなたの彼女なんだから、きちんと言っておいて!」


「わかったよ…」

H含め、千夏さんが主導的であることがほとんどだから、負担が重すぎる。


でもやらないと田沢さんのことだ。とか言うかもしれない。

後回しにせず、早めに何とかしよう。


田沢さんは僕の返事を聴いた後、その場から立ち去った…。



 「千夏さん。ちゃんとしないと、千春さんに言い付けるよ」

あれこれ言うよりも、彼女にはこれが一番効くはずだ。


「うぅ…」

苦虫を噛み潰したような顔をする千夏さん。


仕方ないとはいえ、彼女のこんな顔は観たくないな。そう思った時…。


「玲が調教してくれるなら、喜んで受けるわ♡」

周りに聴こえない小声で話す千夏さん。


さっきの『きちんと言っておいて』を調教の一種だと解釈したとか?

…理由は何でも良いや。


千夏さんが不真面目になると、本人はもちろん僕と千春さんまでも被害に遭う。

それだけは絶対に避けなければ。


「今日の放課後、しっかり調教するから楽しみにしててね」

僕も小声で千夏さんに伝える。


「うん♡」


今日のHは、ハードになりそうだ…。

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