こっそり部屋に忍び込む?

 千夏さんと下校中、突然携帯の着信音が聴こえる。この音は僕のじゃないな。

彼女がスカートのポケットに手を入れたとなると、千夏さんのか…。


「母さんから電話だわ」

千夏さんは電話を取ってちょっと操作した後、僕に画面を見せてくる。


どうやらスピーカーに切り替えたようだ。

これで携帯に耳を当てなくても、通話が可能になる。


「もしもし千夏ちゃん? 玲君も隣にいるかしら?」


「いますよ」

僕に関係することかな?


「母さん、どうしたのよ?」


「実はね、買い忘れたものがあるから出かけようと思ってるんだけど、千夏ちゃん家のカギ持ってる?」


「えーと………あるわ」

カバンの中をごそごそした結果、ようやく見つけたようだ。


「じゃあ出かけても問題ないわね。遅くはならないから、後はよろしく♪」


「了解よ」


その後、通話が切れる…。


「帰った時に母さんがいるのが当たり前だから、カギの存在忘れてたわよ」


「あはは…」

そんな堂々と言う事じゃないと思う…。



 自宅前に着いた千夏さんは、カギで開錠し中に入る。僕も彼女の後に入った。


「物音がしない家って、落ち着かないわね~」

千夏さんがつぶやく。


普段は千春さんがいるから、ある程度の物音が出る。

それが当たり前になっている千夏さんは、そう思うだろうね。


「着替えたいから、アタシの部屋に行きましょうか」


「うん」


いつもは2人でリビングに向かい千春さんに会った後、千夏さんは着替えるために1人で自室に行く流れが多い。その間、僕は千春さんとおしゃべりする。


それから着替え終わった彼女が合流、というのがお決まりだ。

けど千春さんがいない今、リビングに向かう必要がないよね…。



 「今日も疲れたわね~」

自室に入った千夏さんは、僕の前であろうと躊躇なく制服を脱ぎ出す。


「そうだね…」

さすがにジロジロ見るのは失礼なので、棚の漫画に視線を向ける。


「玲。アタシが目の前で着替えてるのに、見てくれない訳?」

そう言われたので彼女を観ると、上下共に下着姿だ。


「見られたくないかな~って思ったからさ…」

何度もHしているとはいえ、気分とか雰囲気も重要じゃない?


それに、だよね。


「見られたくなかったら、部屋に入れないでしょ。入れたって事はさ…」


またはというのが、千夏さんの言い分だろう。

僕だって気になっているよ…。


「そこまで言うなら、観察させてもらうね」


「…うん♡」

急に落ち着きがなくなる千夏さん。…ちょっと興奮してる?


千夏さんの着替えが終わるまで、僕は彼女から目を離さなかった。

そのせいか、いつもより着替えの時間が長かったような…?


僕も千夏さんも損してないし、特に問題ないか。



 「ねぇ玲。今までお父さんかお母さんの部屋に忍び込んだことある?」

千夏さんによくわからないことを訊かれる。


「ないよ。そう思った事もない」


「そうなの…? やっぱり真面目ね~」

そんな事を訊いてくるって事は…。


「その顔、気付いたかしら? 普段いる母さんが今いないのよ。忍び込むチャンスじゃない?」


千春さんの部屋にはHする時に入るから、回数自体はそこそこあると思う。

それは、千夏さんも同じはず…。


「気になるのは、引き出しの中よ。玲も気になるでしょ?」


「なるけどさ…。もしバレたらマズいでしょ」

他人の僕はともかく、母娘の千夏さんは気まずくなると思うけど…。


「開けるだけよ。中の物を触らなければ、バレる訳ないわ!」


それならバレることはないか…?


よ。早く母さんの部屋に行きましょ」

僕の手を取る千夏さん。


他人の部屋に忍び込むって、じゃないよね?



 千夏さんの部屋を出た瞬間のことだ。


「ただいま~」

千春さんが帰ってきた。


運悪く? 鉢合わせる結果になってしまった。


「お…おかえり」

千夏さんは気まずそうな顔をする。


「? 千夏ちゃん。どうかしたの?」


「何でもないわよ…」


「ホントかしら~?」

さすが千春さん、鋭いな。


で終わって良かったよ。もしバレていたらどうなっていたか…?

でも千夏さんの言い分もわかるしな…。


複雑な心境の僕であった。

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