好きだからこその悩み
僕は悩んでいる。最近読む一部の漫画に対し、既視感を抱いたり展開が読めるようになってきた。
少年漫画好きだからいろんな作品を読むけど、それが仇になっているというか…。
あまり漫画を読まない人は、気にならないだろうね。
僕は漫画以外、趣味といえるものがない。
なので、不満を抱いても漫画を読むことを止められないんだ…。
千夏さんの部屋にいる時に、僕は悩んでいることを彼女に話してみた。
「玲の言いたいことはわかるわ。けど何から何まで同じ漫画はないんだから、違いを見つけて楽しみなさいよ」
千夏さんの言う通りだ。ストーリーは似ていても、絵も似ていることはないからな。そこは差別化できるポイントになるはず…。
「…母さんに相談してみるのもアリかもね」
千春さんにか…。あの人は漫画を一切読まないけど、わかってもらえるかな?
…人生の先輩だし、相談して損はないか。
「そうするよ」
僕は彼女の部屋を出ようとする。
「待って。アタシも行く」
千夏さんも? 関係ない話なのに?
「どうして?」
「玲が悩んでるのに、放っておけないわ。それに、母さんがなんてアドバイスするか気になるし…」
「…わかった。一緒に行こう」
僕と千夏さんは部屋を出て、リビングにいる千春さんの元に行く。
リビングに着いて早々、僕はさっきの件を千春さんに相談してみた。
「…ん~、倦怠期みたいなものかしら?」
「倦怠期?」
何でそんな話になるんだろう?
「漫画をたくさん読んだから、ドキドキしなくなったんでしょ? それって、長い期間付き合ってドキドキする機会がなくなったカップルみたいなものじゃない?」
「あ~、確かにそうかも!」
千夏さんは納得したみたいだな。
僕は微妙だな…。漫画は物だけど、カップルは人だよね?同じ扱いで良いの?
「玲君は、漫画以外の趣味を見つけると良いかもね♪」
「それも考えたんですが、思い付かないんですよ…」
「だったら、料理はどうかしら?」
「料理?」
考えたことすらなかった…。
「自炊できるようになると便利よ♪」
確かにそうだ。レトルトやカップ麺に頼り切るのは良くないし、今の内にスキルを磨いてみようかな…?
「そうですね…。料理、良いかもしれません」
「…アタシも、料理勉強しようかな」
千夏さんも興味を示す。
「2人が興味を持ってくれて嬉しいわ♪ 今日の夕飯、カレーにするつもりなんだけど、玲君と千夏ちゃんには具材を切ってもらおうかしら♪」
良かった。切るぐらいなら、僕にだってできる。
「そんなの簡単じゃん! ちゃんとしたのを教えてよ!」
明らかに不満そうな千夏さん。
「何事にも順序があるの。それに、切るのを甘く見ちゃダメ♪」
包丁だって油断したら怪我するよな。第一段階に向いているかも?
「早速始めましょうか。エプロンは、私のを使ってね♪」
僕達はキッチンに向かう…。
千春さんが用意したエプロンを着ける僕と千夏さん。
エプロンを着けたのって、調理実習の時しかないな…。
「2人とも、似合ってるわよ♪」
…エプロン姿の千春さん。じっくり見たのは、今回が初めてだ。
「玲。今、裸エプロンでも考えてた?」
千夏さんがニヤニヤしながら言う。
「考えてないよ!?」
そう言われると、意識しちゃうじゃん!
3人が揃ってキッチンにいると狭いな…
「2人同時に切れないから、最初は玲君からね」
そう言って、僕をまな板前に誘導する千春さん。
切るだけなんだ。大したことない。
…はずだけど、母娘に見つめられるから緊張する…。
僕はすぐそばの人参を手に取り、大きめのサイズに数回切る。
自分でもわかるぐらい、包丁の動かし方がぎこちない…。
「玲君。人参は硬い野菜だから、煮込むのに時間がかかるのよ。こういう風に、小さく切るの♪」
後ろに立った千春さんは、僕の手を握ったまま包丁をゆっくり動かす。
…胸を押し付けられて集中できない。
何とか人参1本を切った。といっても、千春さんが切ったも同然だけど。
「今度はアタシね」
立ち位置を交代する、僕と千夏さん。
彼女は玉ねぎを手に取って切り始める。
千夏さんは、リズム良く玉ねぎを千切りする。
切る動作に迷いというか、躊躇を感じない…。
「こんなもんでしょ。同じ大きさに切れなかったのが悔しいわ」
彼女はそう言うけど、僕から見たら大差ないと思う。
「千夏ちゃんは切り方もだけど、煮込むことを考えて薄く切ったのもポイント高いわ。切るのは問題なさそうね」
「だからさっき言ったのよ。ちゃんとしたのを教えてって!」
「千夏さん、料理の経験あるの?」
包丁のスキルは、僕より数段上だ。
「ないわよ。切るなんて、誰でもできるじゃん…」
千夏さんが上手いのか、僕が下手なのか…。
切るのが下手な僕に補習が必要だと判断した千春さんは、以降の具材を全て僕に切らせた。…回数を重ねたから、最初よりはうまく切れるようになったぞ。
「千春さんすみません。手伝うどころか、足を引っ張ってしまいました」
彼女が1人でやれば、あっという間に終わったはずだ。
「良いのよ。玲君と一緒に切ることができて楽しかったわ♪」
迷惑をかけたのに、笑顔の千春さん。
「…後は、煮込むだけね」
彼女は鍋に具材とカレールーの素を入れてから、ガスの火を付ける。
「玲君。具材を切った感想を訊かせて♪」
千春さんに感想を求められる僕。
「普段やらないことをやるのって、新鮮で楽しいですね。これからも千春さんの迷惑にならない限りで手伝ったり、観察したいです」
正直な気持ちを伝えてみた。
「いつでも大歓迎だからね♪」
「アタシも母さんの料理テクニックを盗んで、玲を満足させてみせるわ!」
千夏さん、やけに張り切ってるな…。
「男の子は女の子の手料理に弱いから、花嫁修業に最適よ。千夏ちゃん」
「でしょ!」
いつか千夏さんの手料理を食べる日が来るのかな?
「玲君は、裸エプロンに興味あるの?」
千春さんが鍋の灰汁をとりながら、僕に訊く。
あの時のこと、覚えていたんだ…。
「まぁ…、興味はありますけど」
メイド服みたいな、ロマン枠だけどね。
「…裸エプロンなら、玲もできるわね。やるなら3人でやらない?」
千夏さんがとんでもないことを言い出す。
「良いわね。ねぇ、玲君もやりましょうよ~」
まさか、千春さんも乗り気とは…。
今回千春さんに迷惑かけたし、それで罪滅ぼししておこう…。
「わかりました。1回だけですよ」
「そうこなくっちゃ!」
テンションを上げる千夏さん。
「玲君に裸エプロンしてもらうなら、可愛いデザインのエプロン買おうかしら?」
千春さん、何を着させる気なの?
気になるけど、今はどうしようもない。その時を待とうか…。
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