彼女が予知夢を見た?

 登校時、千夏さんと待ち合わせているマンション前に向かう僕。

…彼女は上機嫌でやってきた。


笑顔だし、足取りが軽く見えるからだ。


「玲、聴いて聴いて~!」

声のトーンも機嫌のよさを表している。良い話が聴けそうだ。


「どうしたの?」


「今日夢を見たんだけど、アタシ、ナイスバディになるっぽいのよ!」


…? 千夏さんは何を言ってるんだ?


「歩きながら話そうよ…」

話を聴くだけなら、歩きながらでもできるしね。


「…そうね。うっかりしてたわ」


僕達は並んで歩き出す…。



 「それで千夏さん、ナイスバディってどういう事?」


「夢に、アタシと玲が出てきたのよ。アタシ達の姿が今と違って、身長が伸びてたのね。んで、アタシの胸が今とは比較にならない大きさになってたって訳」


今とは違う姿? もしかして…?


「それって、ってやつ?」

存在は知ってるけど、実際に見た人は周りにいない…。


「多分ね。母さんには負けるけど、アタシもそこそこの大きさになるみたい♪」


千夏さん、本当に嬉しそうだな…。


「その予知通りになると良いね」

良い未来が待っているんだもんな。


「…って、感想それだけ?」

何故か不満そうな顔をする千夏さん。


「…え?」

他に何を言えば良いんだ?


「アタシと玲が、これからも一緒にいられるって事じゃない! 胸が大きくなるのも嬉しいけど、玲と一緒にいられるのはもっと嬉しいのに…」


「…ゴメン。気付かなかったよ」

胸が大きくなる、というインパクトが大きくて…。


「ホントにそう? アタシと一緒にいたくないとか?」

千夏さんは落ち込んでいる。


「そんな事ないよ! 僕だって、これからも千夏さんと一緒にいたい!」

言葉以外でやれることといえば…。


僕は勇気を出して、千夏さんの手を握った。

恥ずかしいけど、気持ちが伝わることを祈る。


「…仕方ないわね。今日はこれで許してあげるわ♡」


僕達は手をつなぎながら、学校に向かう。



 「さっきの夢のこと、千春さんは知ってるの?」

彼女はどういう反応をしたんだろう?


「話してないわ。朝は父さん含め3人で朝食だから、タイミングがなかったの」


母娘は仲良くても、お父さんの和人さんとは普通みたいだから、そんなこと話さないよな…。


「だったら放課後に話せるね」


千春さんはどういう反応をするんだろう。楽しみだな。



 放課後。千夏さんは夢のことを千春さんに伝える。


「今日はお赤飯炊かないとね! …2人はケーキのほうが良いかしら?」


千春さんは、まるで自分のことのように喜んでいる。

見ている僕も嬉しくなるな。


お赤飯って、確か祝い事の時に食べるんだよね?


千春さんのテンションの高さ的に、千夏さんの胸が大きくなることと、これからも一緒にいられる以外の意味を含んでいるような…。


僕の考え過ぎかな?


「玲君と千夏ちゃんが結婚か…。感慨深いわ!」


やっぱり違う意味が入ってた!


「結婚!? 何でそうなるんです? 」

千夏さんの説明は、そこまで踏み込んでなかったぞ。


「私、変な事言ったかしら? 千夏ちゃんもそう思ったわよね?」


「…うん」

顔を赤くして恥ずかしそうにする千夏さん。


いつもの彼女らしくない反応にドキドキする。


夢を見た張本人の千夏さんがと解釈したなら、それに従おう。

だったらなんで、朝はっきり言わなかったんだろう?


「…玲君って少し鈍いわよね。千夏ちゃんが見た夢って『付き合ってる2人が末永く』と考えることもできるけど、やっぱりを意識するものじゃない?」


千春さんに指摘される僕。


「…そうかもしれません」

の次のステップは、結婚だし。


までは言わないけど、考えを広げて欲しいわね♪ 慌てずゆっくり、立派な大人を目指してちょうだい♪」


「頑張ります」

難しいことだけど、千夏さんと一緒にいられるためなら頑張れるな。



 未来は、良くも悪くも自分で切り開くものだ。

千夏さんが見た夢以上の未来になるよう、一生懸命努力しよう。

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