知っているようで知らない親のこと

 「…みんなのご両親って、どこで出会ったりどっちがプロポーズしたかわかる?」


HRホームルーム中、担任の冬城先生がクラスメートに、キャラに合わないことを訊いてきた。

そう思うのは、あくまで個人的だけどね…。


「先生、それってどういう?」

クラス委員長の田沢さんが質問する。


彼女も、僕と同じような違和感を抱いたかも?


「…この間、母とお酒を交えて話したんだけど、酔った勢いで急に話し出してね…」

困った顔をする冬城先生。


そういえば、千春さんってお酒飲むのかな? 聞いたことないけど…。


「…その時初めて知ったのよ。だから、みんなはどうなのかな? って思っただけ」


両親の出会いとプロポーズか。興味を持ったことすらない…。


千夏さんは知ってるかな? 千春さんと和人かずひとさんの出会いとプロポーズについて。


「…良かったらご両親に訊いてみて。話のネタになると思うわよ…」


ちょうどチャイムが鳴ったので、冬城先生は教室を出て行った。

もしかして時間を潰すために話したのかな?



 「千夏さん。千春さんと和人さんの出会いとプロポーズについて知ってる?」

HR後の休憩時間に尋ねてみた。


「まぁね。職場で出会った事と、父さんからプロポーズしたのは聴いたわ」


あの2人、そういう繋がりだったのか…。


「玲のご両親はどうなの?」


「全然知らない。ていうか、興味すら持ったことがないんだよね」


「嘘でしょ!? アタシ、小学生の時に気になって訊いたわよ」

驚く千夏さん。


あれ? 僕って少数派なの?


「でも詳しくは聴いてないから、今日ちゃんと訊いてみよっか」


「そうしよう」



 放課後。僕達は千春さんに経緯を説明し教えてもらうことにした。


「和人さんは、私が入社した時の指導役だったのよ」


初対面の印象では千春さんよりちょっと年上に見えたけど、その通りだったようだ。


「そうやって交流を深める内に、食事の誘いを受けて、それからデートに誘われて…という感じね。職場結婚の定番じゃないかしら?」


「プロポーズはどこでしたの?」

千夏さんが質問する。


そこも聴いてなかったんだ…。


「夜景が綺麗なところよ。これも王道よね」

微笑む千春さん。


王道か…。それでも、変に凝るよりは良いかもしれないな…。


「玲君のご両親はどうなの?」

千春さんは僕の顔を観る。


「それアタシも訊いたんだけど、知らなくて興味すらなかったんだって」


「そうなの…。子供にそういうことを話したくない親もいるでしょうし、玲君はその考えを引き継いだんでしょうね…」


そうかもしれないけど、単にきっかけがなかっただけかも?

今日訊いてみようかな。…覚えていればだけど。



 帰宅後。僕は母さんに出会いとプロポーズについて訊いてみた。

怪訝な顔をした母さんだけど、経緯を説明したら納得してくれたよ。


両親は同じ高校のクラスメートだったらしく、高校の卒業式の日に父さんからプロポーズしたようだ。


とはいえすぐ結婚した訳ではなく、お互い大学を出てある程度働いてから結婚したみたい。結婚してから母さんは専業主婦になったようだ。


結婚を遅らせた理由は『お金のため』らしい。シンプルだけど納得できるな。


2人の付き合いの長さに驚いた。今はお互い用事がある時しか話さないのに…。



 両親って身近な存在なのに、意外? と知らないこともあるんだな。

キッカケを与えてくれた冬城先生に感謝しよう。

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