漫画好きには由々しき事態?

 最近、暗いニュースが多い気がする。実感がないので『大人って大変だな~』としか思ってなかったけど、あるニュースは僕と千夏さんにも関わる事だった…。



 「玲。あそこの本屋、潰れたらしいわよ」


ある日の登校中、千夏さんが教えてくれた。


場所を確認したところ、1度も行った事がない本屋だから特に困らない。

千夏さんも同じはずなのに、何でわざわざ話したんだろう?


「その顔『関係なくない?』とか思ってる? 今は関係なくても、いつかアタシ達が行く本屋が潰れちゃうかもしれないでしょ!」


そういう事か…。そこまで考えてなかったな。


「それは確かに困るね」


僕と千夏さんは紙で漫画を読むから、本屋がなくなるのは死活問題だ。

ネットでも買えるけど、最低1日のタイムラグがあるのは辛い。


都会なら即日配達が可能らしいけど、僕達が住んでる辺りは無理だな…。


「でしょ? アタシ達にできるのは、買い物するしかないけどね」


それと、祈ることかな。僕達高校生がやれることなんて、たかが知れている…。



 学校に着き、1限の現代文が始まる…。

担任で現代文担当の冬城先生が授業を開始した。


…いきなりプリントを配り始めたぞ。

受け取ったので読んでみる。


<<以下の5タイトルの小説から1タイトル選び、感想を書いて下さい>>


簡単にいうと、読書感想文?


「…読書感想文のような本格的なものは求めてないわ。小説を読まない人に、読むきっかけを与えたいの…」


冬城先生が解説を始める。


良かった。読書感想文は苦手だから、本当に助かるよ。


漫画は読むけど、小説は読まないな…。

活字って疲れるし、イメージしにくいからね…。


億劫だけど、5タイトルについてチェックしてみよう。

…簡単な概要がある。


①生まれ変わった主人公が、異世界で大活躍する作品。


これって異世界転生ものじゃん。ラノベでも良いの?


②殺人事件の犯人を推理するミステリーもの。


③対立している家同士で芽生える恋愛もの。


ロミオとジュリエットみたいだ…。


④読書の大切さについて触れてるエッセイ。


⑤単身赴任している父親からの連絡が途絶えたので、父親の元に向かう作品。


現代風『母をたずねて三千里』かな?



この5タイトルから選ぶのか。…どれにしよう?


「…みんなには悪いけど、どれかを購入してね。その代わり、期限は長めにしておくから…」


その話が終わった後は、普段通りの授業となった。



 現代文終了後の休憩時間。さっきの小説について、千夏さんに訊いてみるか。

と思ったけど、彼女から声をかけてきた。


「冬城先生って、良い人よね!」

嬉しそうな顔をしている。


「えーと、何のこと?」

良い話はしてないはずだけど?


「さっきの小説の感想を書くやつよ。みんなに本を買ってもらうために、ああいう事をするんでしょ? 現代文の先生だから、本屋のことを考えてくれてるのね!」


千夏さん、深読みしすぎじゃない?

とはいえ、可能性は0じゃないからなぁ…。話を合わせておこう。


「そうかも。地道だけど、本屋のためになってると思うよ」


言い終わってから思った。本を買ってもらうのは事実だけど、クラスメート全員が本屋で本を買うとは限らないことを…。


……本屋に貢献してるのは変わらないから良いか。



 「玲は、どの小説を読む気なの?」

僕が訊きたいことを質問する千夏さん。


「悩んでるよ…」

フィクションでも人は死んでほしくないから、ミステリーは除外だな…。


「アタシも…。それよりもさ、今金欠だからヤバいのよね~」

千夏さんは作り笑いをする。


「千春さんにお願いすれば良いんじゃないの?」

あの人なら買ってくれると思うけど…。


「バイトしてないからお小遣いもらってる訳だけど、服とか色々買ってもらう事が多いのよ。本まで買ってもらうのは、さすがに躊躇するわ…」


なるほど。千春さんに気を遣っているのか。


「期限は長めだし、来月にする?」

来月お小遣いをもらった後に買っても問題ないからね。


「それも悩むのよ。先送りって嫌いだし…」


僕もそう思うから、気持ちはわかるな。



 放課後。千夏さんの家に寄る僕。

千春さんはリビングでテレビを観ていた。


「おかえり。千夏ちゃん、玲君」


「ただいま…」


本のことを気にしているのか、千夏さんのテンションは低めだ。


「千夏ちゃん、何かあったの?」

すぐに違和感を抱いた千春さん。


「実はですね…」

千夏さんは隠そうとするはず。僕が説明しよう。


現代文でもらったプリントを千春さんに見せる。


「…そういう事ね。千夏ちゃん、本ぐらいなら買ってあげるから」


「良いの? 色々買ってもらってるのに…」

バツが悪そうな顔をする千夏さん。


「子供は、どんどん親に甘えなさい♪」


「…ありがと、母さん」


微笑ましい光景だ。


「もちろん、玲君も甘えて良いからね♪」

急に僕を観て言いだした。


「はい」

今でも十分甘えてると思うけど…。の話だけどね。



 「それよりも…、この作品について詳しく教えてちょうだい!」

千春さんが僕にプリントを近づけ、ある部分を指差す。


…異世界転生ものの小説タイトルを指している。


『生まれ変わった主人公が、異世界で大活躍する作品』という概要では、わかりにくいよね。


ていうか千春さん、異世界転生に興味あるの?


「主人公が異世界で敵を一瞬で倒したり、女子にモテまくるジャンルですね」

そういう展開しか、僕は知らない…。


「へぇ…。生まれ変わって、好きなことができるのね…」

千春さんは考え込んでいる。


「母さん。生まれ変わりたい訳?」


「そうね。玲君と千夏ちゃんと一緒に学校に行ったり、玲君の妹に生まれ変わって『玲お兄ちゃん』って呼ぶのも悪くないかも♡」


1人で盛り上がっている千春さん。


「……」

予想外の出来事により、僕と千夏さんは黙って見守る。


って、ある程度の年齢の人に刺さるんだろうか?



 その後、千春さんの車で本屋に向かいながら、読むタイトルを考えた。


僕は『現代風、母をたずねて三千里』のやつに決めた。

父親が連絡を絶った理由が気になるからだ。


千夏さんは『対立している家同士で芽生える恋愛もの』にしたようだ。


本屋に着いた後、僕達は各タイトル1冊を手に取り千春さんに渡す。

千春さんがまとめて清算するからだ。


本屋に向かう道中、僕のも買ってもらう話になったのでお言葉に甘えた。



……僕達が千春さんに各タイトルを渡す前、既に持っていた1冊の本が気になる。

もしかして千春さん、転生ものデビューするつもりなのかな?

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