ジェネレーションギャップ、再び!

 学校帰りに千夏さんの家に寄ると、リビングに千春さんの姿はなく、机にお札やカードが置いてある。


…そばには、2つの財布があるな。

1つは少し傷んでいる感じがするけど、もう1つは新品に見える。


きっと、中身を移し替えようとする途中なんだろう。


「おかえり、玲君・千夏ちゃん」

リビングに入ってきた千春さんは、早々にキッチンに向かい手を洗う。


トイレに行ってたのかな?


「財布の中身を移し替える途中なのよ…」

そう言った後、ダイニングテーブルにつく千春さん。


僕の思った通りだった…。

…ん? あのカードは何だろう? 妙に薄っぺらいけど?


「母さん、それ何? ICカードじゃないわよね?」

千夏さんも僕と同じカードが気になったようだ。


「これ? 『テレホンカード』よ。全然使わないから、中身を取り出した時に入っていることを思い出したんだけど…」


苦笑いする千春さん。


「テレホンカード…。公衆電話で使うやつでしたっけ」

話は聴いたことあるけど、実物を見るのは初めてだ。


「アタシ、初めて観た…」

驚いた表情をする千夏さん。


「今の子は、公衆電話なんて使わないでしょうね…」


「たまに見かけるけど…。あれ、いらなくない?」


今の時代、老若男女問わず携帯を持っているからね。

僕も千夏さんと同意見だ。


「災害時には役に立つらしいわよ。聞いた話だけど…」


「へぇ~」


「ふ~ん」


実感がないので、僕と千夏さんは適当に返事をした。



 「今の子って、電話に悩んだことがないでしょうね。羨ましいわ」

千春さんが懐かしむように言う。


公衆電話をきっかけに思い出したんだろう…。


「母さん、それどういう意味?」

不思議そうにする千夏さん。


「昔って、家の電話しかなかったじゃない? だから友達に電話したくても、最初に出るのは友達とは限らないのよ。私、それが嫌で悩んだことがあるの…」


今は携帯があるから、誰かを経由することはない。

昔ならではの悩みだな…。


「もちろん小さい頃の話よ。回数を重ねたら、何とかなったけど…」


「大変だったんですね…」

これぐらいしか、かける言葉が思い付かなかった…。



 そもそも、最後に電話したのっていつだ? 全然記憶にない…。

メッセージやSNSがあるから、相手の事情を考えずに連絡できるしね。


僕が千春さんの立場だったら、どうなっていたんだろう?


「アタシ、携帯がある時に生まれて良かったわ…」

千夏さんも僕と同じように、不安を抱いたようだ。


「僕もだよ。千春さんのように、何とかなる自信がない…」

携帯が使えることに感謝しないとな。



 「千春さん、これからもこういう話聴かせてほしいです!」


グループディスカッションでも触れたけど、歳の差があると知らないことを学べる。

教科書で勉強するより、経験者の話を聴いたほうが楽しいな。


「…話すと2人との歳の差を強く感じるから、できれば話したくないんだけど…」

落ち込む千春さん。


「ちょっと玲!? 母さんを落ち込ませるんじゃないわよ!」

千夏さんに怒られてしまった。


「ご…ごめん」


僕は歴史より、女心を勉強したほうが良いかもしれないな…。

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