グループディスカッションのテーマ決め

 現代文の時間の終わりかけに、冬城先生がプリントを配った。


えーと、<<グループディスカッションのテーマ募集?>>


「…今度、みんなにグループディスカッションをやってもらうわ。議論するテーマを募集するから、明日提出して…」


チャイムが鳴ったので、冬城先生は教室を出て行った。


担任の冬城先生は、かつて担任だった高橋先生と同じ現代文の教師だ。

こうなることを見越して、冬城先生を副担任にしてたのかな?


千春さんが言った通り、冬城先生の雰囲気は会った当初よりは柔らかくなった。

それでも親しみやすさは感じないけどね…。



 休憩時間。僕は隣の席の千夏さんに尋ねる。


「テーマって言われても、思い付かないよね…」


「そうね…。母さんに訊いてみよっか」


千春さんなら、ちゃんとしたアドバイスをくれるはず。



 放課後。僕達は早速、千春さんに経緯を説明してからアドバイスを求めた。


「そもそも、グループディスカッションって何?」

千春さんはピンとこないようだ。


「与えられたテーマに対して議論して結論を出すことです」

僕が説明する。


「へぇ~。昔は、そんなのなかったわよ…」

驚いた様子を見せる。


グループディスカッションを知らない人が、アドバイスできるとは思えない。

今回ばかりは、自力で頑張らないといけないか?


「『犬と猫、どっちが好き?』は入るの?」

千春さんが僕に訊いてきた。


「そういうのは『二者択一型』ですね。お互いの良い点・悪い点を議論します」


「…面白そうね。授業参観でやってくれないかしら?」

どうやら興味津々のようだ…。


「…で、玲はどっち派なの?」

千夏さんが訊いてくる。


犬派・猫派は千春さんの例え話だけど、僕がどっちを選ぶか気になるようだ。


「僕は犬派だよ」


「そうなの? 私と同じね♪」

千春さんが嬉しそうに言う。


「アタシは猫派よ」


仲が良いこの母娘ですら、意見が分かれるのか…。


千春さんには悪いけど、犬派・猫派のテーマが冬城先生に受け入れられるとは思わないからボツだな。もっと真面目なテーマにした方が良さそうだ。



 その後、3人でテーマを考える。…なかなか良いのが思い付かない。


「…あ!」

千夏さんが突然声を上げた。


「どうしたの?」

気になったので訊いてみる。


「『本は紙か電子書籍、どっちが良い?』これ良くない?」


「良いと思うよ」

漫画好きの僕達だからこそ思い付くテーマだ。


「アタシ達は紙派だけどね。玲?」


「うん」

紙のほうが気軽に読めるもんな。それに貸し借りも楽だし。


「なかなか思い付かないわね~…」

千春さんが腕を組んで考えている。


「すみません。僕達が考えないといけない事なのに…」

一方的に千春さんを巻き込んでいるからな…。


「良いのよ。頼ってくれるのは嬉しいから♪」

そう言って、また考え込む千春さん。


さっきのを千夏さんに取られたのは痛いな。

本や漫画に関することと言えば…。


…思い付いたぞ。


『本を本棚に入れるか、平積みするか』


これにしよう。ふぅ、やっと決まった。


僕は本棚に入れるけど、気が向いた時に読みたい人は平積みすると思う。

性格の違いが出て面白いはずだ。


「玲君。私、思い付いたわ!」

テンションを上げる千春さん。


「何ですか?」

もう決まったけど気になるな…。


「『お風呂に入る時、体のどこから洗う?』はどう?」


「……」

僕と千夏さんはノーコメントだ。


さっきの犬派・猫派といい、千春さんのテーマは和むな。

議論するテーマ向きではない…。


「…千春さん。僕、テーマ決めました」


「そう…。役に立てなかったわね…」

しょんぼりする千春さん。


「一緒に考えてくれただけで嬉しいです」

これは本音だから、忘れずに言わないとな。



 次の日。僕と千夏さんは決めたテーマを書いて提出した。

誰のテーマが採用されるのかな?


…続く。

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