鈴華さんを理解する?
ある土曜の午前中。僕は近場の本屋を目指し歩いている。
千春さん・千夏さん母娘は、実家に行ったからいない…。
急用ではなく、祖父母に顔を見せるためなのでその点は安心だ。
あの2人がいないと暇だな~。漫画を読むとしても、午後からで良いや。
1日ぶっ通しだと、目が疲れるし…。
なので今、新刊を買うために本屋に向かっている訳だ。
本屋の後は、暇つぶしにコンビニにでも寄ろうかな…。
本屋での要件を済ましコンビニに向かう途中、後ろからクラクションを鳴らされた。普通に歩道を歩いているだけなんだけど? 僕、何かやらかした?
そう思い振り返ると、車の窓からある人が顔を出した。
…鈴華さんだ。1対1は初めてだな…。
「玲ちゃん、1人でどしたの? ちなちゃんは?」
「おばあちゃんの家に行ったんですよ」
「ふ~ん。…玲ちゃんが良ければ、あたしとおしゃべりしない? あたし暇でさ」
どういうつもりかわからないけど、千春さんと田沢さんが鈴華さんの下ネタに困っていることを話したいし、誘いに乗ろう。僕も暇だしね。
「良いですよ」
「じゃ乗って」
助手席を指差す鈴華さん。
「…失礼します」
僕は鈴華さんの車の扉を開け、助手席に乗る。
「緊張しなくて良いからね~♪」
そう言って、鈴華さんは車を発進させた。
「喫茶店でおしゃべりしよっか。良い?」
鈴華さんが助手席にいる僕に尋ねる。
「はい」
「良かった。その店のパンケーキとパフェに前から興味があったんだけど、2人前なんだよ。だから、玲ちゃんも一緒に食べてね♪」
「わかりました」
…待てよ? 喫茶店ってことは、お金がいるじゃん!
「あの…、お金は…」
「良いって。あたしのおごり! 高校生に割り勘させるほど、困ってないから」
「ありがとうございます…」
お金の問題は解決したな。
「今日ちなちゃんに会えないから、抜いてもらえないね~」
僕をチラ見してニヤニヤし始める鈴華さん。
早速下ネタが始まったぞ…。忘れないうちに言っとくか。
「鈴華さん。千春さんと秋穂さんが、下ネタを嫌がってるんですよ。控えてもらえませんか?」
「何で?」
真顔で僕を見つめる鈴華さん。
…今は赤信号で停止中だからできるのか。
「何でって…」
言葉が見つからないな…。
「それさ、昔春ちゃんにも言われたことあるんだよね。春ちゃんはともかく、秋ちゃんが君にそんなこと話すなんてびっくりだよ。…信頼されてるのかな?」
「それはわかりませんけど…」
田沢さんと話すことはあまりない。信頼されてるかは微妙だ…。
「下ネタってさ、悪口じゃないじゃん。それに人間とエロは切っても切れない関係だよ。何でそんなに嫌がるのかな?」
「……」
答えられないので、黙っておく。
「下ネタを話すことを悪としている世の中のほうがおかしいと思うけどね…」
下ネタを話すことに対して、鈴華さんなりの考えがあるんだな。
「春ちゃんだってそうだよ。あたしに『下ネタ言わないで!』とか言っておきながら、ヤることヤってんだから。ああいうむっつりさんが多いのなんの…」
「千春さんの悪口は止めて下さい!」
あれこれ考える前に、言葉が口から出てしまった。
「そんなつもりないよ。本音を隠して建前で話す人が多いって言いたかっただけ♪」
鈴華さんの考えはわかった。やはり癖が強い人だ…。
「…目的の喫茶店に着いたよ。玲ちゃんが食べたいのも注文して良いからね」
そう言って、車から降りる鈴華さん。
僕も急いで降りる。
喫茶店に入り、ボックス席に案内された僕と鈴華さんは向かい合って座る。
客は数組しかいない。朝でも昼でもない時間だから、少なめのようだ。
席に着いて早々、鈴華さんが目当てのパンケーキとパフェを注文する。
僕は特に頼まなかった。その2つのボリュームが良くわからないからね。
注文を聴いた店員さんが立ち去った後、僕のモノをグリグリされる感触がする。
…鈴華さんが机の下にある足を伸ばして刺激してくる。
「今日はちなちゃんがいないから、あたしが抜いてあげても良いよ。エッチな玲ちゃんとヤってみたいしね」
「止めて下さい!」
千春さんと千夏さん以外の人にイかされたくない。
「君はそう言うけど、そっちは違うみたいじゃん?」
刺激に喜んで大きくなる、僕のモノ。
「まったく…。素直じゃないねぇ。気持ち良くなれば、本音が言えるはずだよ」
ダメだ…。気持ち良さに惑わされそうになる。
「さすがに店内はダメだけど、車の中なら良いからね♪」
「……いい加減にしてください!」
僕は誘惑を振り切り、鈴華さんの足を軽く蹴る。
「…やるじゃん。君は本当に真面目だね。その調子でちなちゃんを守るんだよ」
「言われなくても、そうしますよ!」
千夏さんだけじゃない、千春さんもだ。
「あたしが本当に訊きたいのはさ~…」
今までは序章だったのか? 何を訊く気なんだ?
「玲ちゃん。春ちゃんとヤったことあるでしょ?」
「……え?」
あまりにも予想外の質問に、言葉が出ない。
「その反応、やっぱりそうなんだね。安心して。別に誰かに言ったりしないから」
誰かに言うかどうかも気になるけど、一番気になるのは…。
「どうしてそう思ったんですか?」
「チアの衣装の話したでしょ。あの時だよ」
(体育祭③ にて)
「チアの話が出た時、君は春ちゃんを見つめてたよね。それを見て、君が春ちゃんのチア姿を想像したのが分かった訳だけど、普通あたし達おばさんのチア姿なんて想像するかな?」
「……」
「想像するってことは、春ちゃんをエロい目で見ていることになるよね。もしかしてと思って訊いたんだけど、ホントにヤってるなんて…」
そんな細かく観察されていたとは…。
「春ちゃん、淫乱すぎでしょ。 …この事って、ちなちゃん知ってるの?」
「…知ってます」
「そっか…。3人が納得してるなら、あたしは何も言わないよ」
店員さんがパンケーキとパフェを運んできた。
…ボリュームは凄いけど、おいしそうだ。
「玲ちゃんは先にパフェをつまんでて。あたしはパンケーキを切るからさ」
そう言って、程々の大きさにカットし始める鈴華さん。
パフェは半分こできないからな。適当につまんで量を調整しよう。
量を調整した後は、僕はパンケーキを食べ鈴華さんはパフェを食べる…。
……完食した。どっちもおいしくて満足だ。
「じゃあ、帰ろっか。玲ちゃんの家ってどのへん? 送るよ」
「良いんですか?」
「それぐらいなら良いって」
僕はお言葉に甘え、家の前まで送ってもらった。
やっぱり、鈴華さんに下ネタを禁止させるのは無理だな。
千春さんもそれをわかったから、距離を置くことを選んだんだろう…。
翌日。千夏さんの家に行く僕。
「玲。前も言ったけど、おばあちゃんがあんたに会いたがってたわ」
(古賀家の秘密 にて)
「千夏ちゃん。車で1時間ぐらいかかるところに来てもらう訳にはいかないわよ」
おばあちゃんに会いに行くってことは、おじいちゃんにも会う訳で…。
そのおじいちゃんは頑固で、あの千春さんが怒るほどだ。
悪いけど、おじいちゃんに会う勇気はないな。
おばあちゃん1人が、この家に来てくれるなら話は別だけど。
昨日鈴華さんに会った事、2人に伝えよう。
「実は昨日、鈴華さんに会ったんです」
「鈴ちゃんに?」
千春さんが訊き返す。
「はい。それとなんですが…」
言わないといけないのはわかるけど、ためらうな…。
「玲。どうしたのよ? 言いにくいことがあった訳?」
心配そうな表情をする千夏さん。
「僕達だけの関係がバレました」
「えぇ!?」
「何でよ!?」
千春さんと千夏さんがそれぞれ驚く。
「チアの衣装の話になった時、僕が千春さんを観てたのでそう思ったみたいです」
「大丈夫なの? あの人、口が軽そうだけど」
千夏さんもバレることを心配している。
「誰にも言わないって言ってたよ」
それを信じるしかないな…。
「鈴ちゃんの良心を信じるしかないわね…」
千春さんも同じことを思ったみたい。
田沢鈴華さん…。一筋縄ではいかないようだ…。
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