1ーCの副担任 冬城美雪

 体育祭の翌日、僕はいつも通り千夏さんと登校する。

担任の高橋先生の腰、どうなったんだろう?


全ては、朝のSHRショートホームルームに判明するな。



 SHR開始のチャイムが鳴ったので、クラスメートが全員席に着く。


全員席に着いて間もなく、教室の扉が開いた。

…入ってきたのは女性だ。という事は、あの人が副担任か。


歳は30歳前後かな? クールビューティーな雰囲気を醸し出している。

親しみやすさはまったく感じず、表情の動きがほとんどなく無表情だ。


副担任が来るって事は、高橋先生が来れないことを意味する…。

先生に特別お世話になった訳ではないけど、普段見る人がいなくなるのは寂しい。


女性は教壇に立ってすぐ、黒板に何かを書き始める。…名前みたいだ。


冬城美雪とうじょうみゆき…。よろしく…」


え? それだけ? ずいぶん寡黙な先生だな~。


「先生、高橋先生の腰の容態は…?」

クラス委員長の田沢さんが、追加説明を求める。


高橋先生を病院に連れて行ったのは、冬城先生だからね。

容態について、詳しく知っているはず…。


「…高橋先生は入院されることになったわ。なので、私が担任になります」

淡々と答える冬城先生。


ではないのか…。これは、戻ってこないと考えたほうが良いな。


冬城先生が高橋先生の腰の説明をしないのは、体育祭の時に会った島先生が

「1-Cの生徒に説明した」と、冬城先生に伝えたからだと思う。


同じことを2回言わないようにする対策だろう…。



 「先生、実はご相談があるんです…」

田沢さんが冬城先生に相談を持ち掛ける。


「…何かしら?」

顔色変えず答える冬城先生。


「実は、佐下君という男子の件でちょっと…」

佐下君の罰について話すことにしたのか。


高橋先生の復帰が絶望的だから、冬城先生に言わないといけないよね。


田沢さんは、佐下君がやらかした事を順々に話す。


「……」

黙って聴いている冬城先生。


田沢さんの説明が終わった後…。


「佐下君…」


冬城先生の呼び方には、温かさを感じない。

冷たいというか、機械的というか…。


「は…はい」

さすがの佐下君も、真面目に返事したな…。


「恥を知りなさい!!」

突然大声で怒鳴る冬城先生。鬼気迫る表情をしている。


さっきとは全く違う声量なので、体をビクッとさせた人が結構多かった。

僕もその1人だけど…。


「……罰のことは、あなたに任せるわ…。委員長さん…」

冬城先生はすぐ淡々とした様子に戻った後、そう言って教室を出て行った。



 1限の放課後…。


「玲。あの先生怖いよね…」

隣の席の千夏さんが、僕に声をかける。


「そうだね…」

漫画やSFでいう、人造人間みたいだ…。


田沢さんは柴田君と話をしている。きっと佐下君の罰についてだろう。

僕は彼の罰について、何も言う気はない。


意見を求められたら答えるけど、その程度だ。自分からは関わらないよ…。



 放課後、いつも通り千春さんに会いに行くことにした。


「母さん。担任の腰の容態が悪いから入院したみたい…」


リビングで3人のんびりしている時、千夏さんが千春さんに話す。


「あらまぁ…。という事は、副担任の方が来たんでしょ? どういう人だった?」

千春さんが僕を観る。


「怖い人でした…。表情の変化がほとんどないんですよ…」


千春さんより年下なのに、何であんなに堅物になるんだろう?

鈴華さんほどじゃなくても、もうちょっとフランクになってほしいよ…。


「でもキレた時は、鬼のような顔をしてたわ…」

あの時を思い出したのか、千夏さんは俯く。


あの時の顔は忘れられない。大人しい人がキレると怖いって言うけど、少なくとも冬城先生には当てはまるな…。


「そうなの…。私、三者面談が不安になってきたわ…」

千春さんまでも、心配そうな顔をしている。


第一印象のクールビューティーは、間違ってなかったな。

僕達3人に、絶大な影響を与えているんだから…。



 リビングに沈黙が続く…。


「き…きっと、初めてみんなに会ったから緊張してたのよ」

千春さんが場の空気を変えようとする…。


「そ…そうね。きっとそうだわ!」

千夏さんがのっかる。


…明るい表情になってくれた。


千春さんの何気ない一言が、千夏さんの表情を変えたんだ。凄いな。


冬城先生の心の氷を溶かせるのは、千春さんなのかもしれない…。

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