体育祭編最終回 担任と副担任の女性

 リレーで汚名返上できなかった佐下君。そんな彼に罰が必要と判断した田沢さんは、罰の内容を担任と相談して決めることにした。


僕・田沢さん・千夏さんの3人は、担任がいると思われる職員室に向かう。



 「…今村君。お母さんのことで訊きたいことがあるんじゃないの?」


職員室に行く道中、田沢さんに訊かれる僕。

既にバレていたようだ…。


「まぁね。田沢さん、お母さんのこと嫌いなの?」

『春ちゃん』の詳細を訊かなかった理由が気になるんだよね…。


「嫌いっていうより、下ネタが多くなりがちだから避けたくなるわね」


初対面の僕達がいる場で、に触れるんだもんな…。

田沢さんが嘘を言っているとは思えない。


「私が小さい頃は、普通だったと思うんだけど…。中2あたりから、妙に増えたのよ。『勝負下着買ってあげようか?』とか『彼氏作らないの?』とか…」


中2の頃なのは、下ネタが通じるタイミングだと鈴華さんが判断したからだろう。

じゃあ千春さんと話した鈴華さんは、あれがなのか。


「…無駄話はこれぐらいにしましょう」

田沢さんは歩くスピードを速める。


もうちょっと話したかったけど、仕方ないか。

田沢さんに置いていかれないようにしよう。



 職員室前に来た。またここに来るとは…。


田沢さんが扉をノックしてから入ったので、僕と千夏さんも続いて入る。


「失礼します。1ーC担任の高橋先生はいらっしゃいますか?」

職員室を見渡しながら言う田沢さん。


あの担任、っていうのか…。誰も名前を呼ばないから忘れていたよ。


するとさっき見た島先生が、僕達のそばに来て言った。


「高橋先生な…。実は腰の容態が悪化して病院に行ったんだよ」


「病院ですか…?」

訊き返す田沢さん。


「そうだ。近日中に1ーCの副担任になる女性が、高橋先生を病院に連れて行ったと聴いている。…高橋先生に用事か?」


「いえ、大したことではないんです」


田沢さんが答えてくれるので、僕と千夏さんは突っ立っているだけだ。


佐下君の罰に関する話は急ぎじゃないけど、腰が悪くなったとなると…。


「腰の容態によっては、職務に影響するかもな。私からは何とも言えんが…」

島先生が、僕の気になることを説明してくれた。


「…わかりました。お忙しい中、ありがとうございました」

田沢さんが頭を下げたので、僕達も頭を下げる。


「気にしなくて良い」

そう言って、自分の席に戻っていく島先生。


僕達は職員室を出る…。



 「それにしても、病院とはね」

職員室前の廊下で、千夏さんがつぶやく。


高橋先生の腰の容態によっては、学校に戻ってこない。

そうなったら、1ーCはどうなるんだ?


「委員長。副担任のこと、何か知ってる?」

千夏さんが田沢さんに訊く。


「知らないわ。…佐下君の件、副担任の人に相談したほうが良いのかしら?」


僕達が副担任のことを知らないなら、副担任も同様かも?

そんな状態で、佐下君のことを話してもなぁ…。


「ここで考えても仕方ないわね。みんなの元に戻りましょう」


田沢さんの言う通りだな。みんながいる運動場に戻ろう。



 運動場に戻ると、胴上げされている場面に遭遇した。

クラスメートに訊いたところ、2ーBが優勝したとのこと。


リレー自体は、胴上げより前に終わっているようだ。

そのせいか、千春さんと鈴華さんの姿はなかった。帰ったみたいだな。


田沢さんがクラスメートに、高橋先生の腰の容態が悪化したことと、女性の副担任の存在を知らせる。


「じゃあ、佐下の件は後回しだな…」

柴田君が田沢さんに確認する。


「そうなるわね…」


それを聴いた佐下君は、特に反応しなかった。反省していると良いけど…。



 その後、閉会式をやった。校長によると、体育委員など体育祭の準備に関わった人以外は、お昼が済み次第帰って良いとのこと。


明日から普通に授業だけど、高橋先生はどうなるのかな?


副担任の女性が何とかするのはわかっている。

けど、どういう人かがまったくわからない。…怖い人だったらどうしよう?


千夏さんと一緒にお昼を済ませた後、いつも通り一緒に下校して彼女の家に行くことにした。



 千夏さんの家のカギが空いているみたいなので続いて入ると、千春さんがタイミング良く脱衣所からバスタオル姿で出てきた。


午前中だけとはいえ、外に出て応援してたら汗をかくよな。

それにしても、相変わらずセクシーだ…。見惚れてしまう。


「母さん。家にいるとは思わなかったわ」


大学時代の友達である鈴華さんと会ったんだ。

積もる話があるから留守だと、千夏さんは思ったんだろう。


「鈴ちゃんと特に話したいことはないし、早めに帰ってきたの♪」


千夏さんの予想通り、千春さんと鈴華さんは仲が良くないのかな?

…詮索はしないほうが良いか。


「それより、いつまでバスタオル姿でいる訳? 早く着替えたら?」

千夏さんが、自分の部屋に行かない千春さんを急かす。


「え~、せっかく玲君が見つめてるのに…♡」


それを聴いた瞬間、千夏さんが僕を睨みつける。


「玲。あんたが観てるから、母さんが着替えられないでしょ!」


「ご…ごめん」


「2人とも、リビングで待っててね♪ 訊きたいことがあるから」

そう言って、自分の部屋に入っていく千春さん。


訊きたいことって何だろう?



 千春さんはラフな格好でリビングに来た。

髪は半乾きだけど、色気を感じるのは僕だけかな?


「それで母さん。何を訊きたいのよ?」

千夏さんが尋ねる。


「1ーCのリレーが終わった後、急に2人が見当たらなくなったから気になったの」


僕・田沢さん・千夏さんの3人で、担任を探していた時だな。

千春さん、応援団長の応援を真似しながら僕達を観ていたのか。凄いな。


「担任を探していたんですよ」

僕が説明する。


「担任? どうして?」

千春さんが不思議そうにする。


「ウチのクラスの佐下が、足を引っ張ったからね。アイツに与える罰を何にするか、委員長が担任と相談したがっていたのよ」


今後は千夏さんが伝える。


「…足を引っ張った? …もしかして、スタートが遅れた子?」


千春さんも観ていたし、覚えていたか…。


「うん。アイツのこと」


「でもあの子、頑張って走っていたじゃない。何で罰が必要なの?」


千春さんは、佐下君がクラスで何度も叫んでいたことを知らない…。


「日頃の行いが悪いからに決まってるじゃない」


これ以上わかりやすい説明はないな…。



 「でもねウチの担任、腰が悪くなって病院に行ったらしいのよ」

千夏さんが説明を続ける。


「腰を? それは大変ね。気持ちはわかるわ…」

千春さんは他人事ではない様子を見せる。


母さんも腰を痛めたことあるし、歳をとるとなりやすいのかな?


「腰の状態によっては学校に来れないから、副担任が色々やってくれるらしいわ」


「そうなの…」


その副担任が謎なんだよな…。明日になればわかる事だけど…。



 「玲君って、チアに興味あるの?」

千春さんに突然質問された。


「どうしたんですか? 突然?」


「鈴ちゃんといた時、私のチア姿を想像したんでしょ?

なら着てあげようかな~?って思ったのよ♪」


「でもあの時、強く否定してましたよね?」


☆―――


「私達おばさんがチアの衣装着るの? あり得ないわよ」


―――☆


こう言ったんだ。間違いない。


「あれは鈴ちゃんの前だからよ。『建前』ってわかるかしら?」


千春さんは、鈴華さんの前では本音を見せなかった。

詮索すべきじゃないのはわかってるけど、訊くのは今じゃないか?


「千春さん。鈴華さんと仲良くないんですか?」


「それ、アタシも気になってた。母さんどうなの?」


「…話しても良いけど、つまらないと思うわよ。…いいかしら?」


千春さんのことを知ることができる話だ。つまらないはずがない。


「はい。教えてください」


「…わかったわ」

千春さんが説明し始める…。

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