体育祭④ やっぱり、あの人がやらかした

 体育祭は、最後のリレーを開始するところまで来た。


参加者は、佐下君・遠藤君・高柳君・吉澤君の4人だ。

全員運動神経バツグンだから、問題ないはず…。


リレーの長さは、運動場のトラック1周になる。確か400メートルだったかな?

それを4人で走るから、トータル1600メートルになるね。


トラックを1週する以上、4人のスタート・ゴール地点は同じだ。

そのため、全員同じところに待機している。


全9クラスなので、3クラスずつのリレーを3回行う。

その後、各リレーで1位になった3クラスで再び行うのだ。


僕達1ーCは最初のリレーで、1ーAと2ーBと勝負する。

相手クラスのことはわからないけど、4人には頑張ってほしい。



 第一走者の佐下君が、スタート地点に移動する。

移動後、彼は応援団がいるところを隅々までチェックしている。


目的は当然、千春さんを探すためだ。


一番前に応援団長、その次の列に応援団員、最後列に学ランを着た保護者がいる。

保護者は合計7人いるみたい。その内、お父さんは3人だ。


千春さんと鈴華さんは隣同士にいるな。

…2人とも、緊張しているようには見えない。


さっきまで隅々をチェックしていた佐下君が、1点凝視に変わる。

…千春さんを見つけたようだ。本当にわかりやすいなぁ。


「位置について…」

さっき職員室前で会った島先生が言う。


それを聴いた佐下君は凝視を止めたけど、下を向いて手で口を隠しているな。

千春さんに会えた嬉しさでニヤけていて、それを隠そうとしている?


ようやくニヤけを収め、体勢を整えている途中で…。


「よーい ドン!」

島先生が空砲を鳴らした。



 スタートダッシュする体勢じゃない佐下君は、2人の走者に比べ反応が遅れた。

そうなった理由は千春さん絡みだ。言うまでもない。


空砲が鳴った後、応援団長が掛け声とともに応援を始めた。

応援団員・保護者共に、応援団長の動きを真似る。


出遅れたにもかかわらず、腕を伸ばせば2位の人に届く距離まで縮めた佐下君。

原因は置いといて、ここまでやれるのは凄いな…。


「ビリになったら、承知しねーぞ!!」

同じクラスの柴田君がキレる。


「佐下って体育祭ぐらいしか見せ場ないんだから、ちゃんとやってよ…」

安藤さんが毒を吐く。


みんな、佐下君に厳しくない?

千春さんに会って以降、彼のお調子者度は跳ね上がったけどさ…。


「玲…」

隣にいる千夏さんが僕を呼ぶ。


「どうしたの?」


「あいつ、おしおきが必要だと思わない?」


佐下君は、千春さんのことが気に入っている。

彼に一番不満を抱いているのは、間違いなく千夏さんだ。


「リレーの結果がわかってからで良いんじゃない?」

結果次第では、佐下君のおしおきはなくなると思う…。



 結局、佐下君は3位のままバトンを遠藤君に渡す。

バトンタッチは問題なかったけど、遠藤君の走りでは差は縮められず…。


遠藤君から高柳君へのバトンタッチがぎこちなく、タイムロスになる。

その結果タイム差がやや広がり、アンカーの吉澤君にバトンタッチされた。


…めちゃくちゃ早いな。2位との差をどんどん縮めていく。

ゴール直前、2位の人を抜いた瞬間ゴールする吉澤君。


彼の足の速さに驚く。追い付くだけでも凄いのに、追い越すなんて…。

1位との差は数秒だったから、1位も夢ではなかったと思う。


とはいえ1位ではないから、1ーCはここで敗退だ。

4人が、クラスのみんながいる場所に戻ってくる…。



 「みんな、ゴメン!」

佐下君は戻ってきて早々、1ーCのみんなに向かって土下座をする。


「俺のバトンタッチも悪かった。みんなすまない!」

高柳君も、佐下君の横で頭を下げて謝罪する。


「高柳君は仕方ないさ。佐下、お前はダメだ!」

柴田君の発言に、男女問わず多くの人が頷く。


「えぇ!? 何でだよ?」

佐下君は土下座をやめ、柴田君を観る。


「お前、古賀さんのおばさんに会ってから調子に乗り過ぎなんだよ! それで俺がどれだけイライラさせられたか…。リレーで優勝したら水に流す気だったが、汚名を返上するどころか増やしやがって!」


「……」

黙って聴いている佐下君。


「クラス委員長として、柴田君の言う事に同意するわ。佐下君、あなたにはなにかしらの罰が必要なようね」


田沢さんが2人の話に加わる。


「…罰?」

今度は田沢さんを観る佐下君。


「そう。今思い付くのは清掃かしら。掃除は心を整えるのに最適だから、煩悩だらけのあなたに最適だと思うわ」


煩悩だらけか…。田沢さん、厳しいこと言うな~。


「…って、私が勝手に決めて良いことじゃないわね。先生と相談して決めましょう」


こういう件に、担任があれこれ言ってくるかな?


「誰か、どこかで先生見なかった?」

田沢さんがクラスを見渡す。


…誰もいない? 朝のSHRショートホームルーム以降、誰も会ってないの?


「私、先生を探してくるから、もし会ったら今の話を伝えてくれるかしら?」

田沢さんは誰か個人ではなく、クラスメート全員に言ってから探しに行こうとする。


「田沢さん、僕も一緒に探しに行くよ」

鈴華さんの件で、色々話をしたいし。


「玲が行くなら、アタシも…」

千夏さんも一緒に来るようだ。


「…わかったわ。とりあえず、職員室に行きましょう」

僕達は担任を探しに行くことにした。

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