体育祭① 千春さんと一緒に応援する意外な女性

 次の日、朝のSHRショートホームルームの時間になった。


「先生、アタシの母さんが応援団に参加するみたいです」

千夏さんが担任に伝える。


「やったぜ~!! 神様ありがと~!!!」

佐下さした君が大声で叫ぶ。


「佐下君、うるさい!」

クラス委員長の田沢さんが注意する。


「先生、私のお母さんも応援団参加を希望してます」


「それはありがたい。これで古賀さんと委員長のお母さん2人が参加してくれることになるのか」


田沢さんのお母さんって、どういう人なんだろう?

こういうのに参加するってことは、お堅い人ではないと思うけど…。


「明日、概要についてのプリントを渡すから、2人とも忘れずに伝えてくれ」

担任が千夏さんと田沢さんを観る。


「わかりました」

2人が答えた。



 放課後、千春さんに報告する僕達。


「へぇ、私以外に参加するお母さんがいるのね。その人の名前はわかる?」


「田沢さんです」

僕が説明する。


「たざわ…。聞き覚えがないわ」


「その人、委員長のお母さんなのよ」

今度は千夏さんが伝えた。


「そうなの? 一緒に応援できるのが楽しみね♪」

千春さんはワクワクしているように見える。



 翌日。朝のSHR中に、千夏さんと田沢さんの2人にプリントが配られた。

応援団の概要についてだね。休憩時間に詳しく教えてもらおう。



そして休憩時間。僕は千夏さんに詳しく訊くことにした。

千夏さんがプリントを渡してくれたので、目を通す。


<<応援団参加の1ーC保護者。『古賀千春・田沢鈴華すずか』>>


田沢さんのお母さん、鈴華さんっていうのか。


1-Cは、僕と千夏さんがいるクラスだ。

このクラスの希望者は、2人だけみたい。


後チェックすべきなのは…


『服装は自由。学ランの上を羽織って応援。応援するのは、最終種目のリレーのみ』


この3つかな。学ラン羽織る必要ある?

…って、練習のことが全く書いてないけど?


「これ、ぶっつけ本番なのかな?」

千夏さんに確認してみる。


「そうかも…。練習のことに全然触れてないし」


保護者を募っておきながら、この扱いなの? ひどくない?



 放課後、千夏さんは応援団概要のプリントを千春さんに渡した。

目を通していた千春さんだけど、ある部分で動きが止まる。


「鈴華って、なのかしら?」

千春さんがつぶやく。


「鈴ちゃん?」

僕はまったく聞いたことないな…。


「…多分、人違いね。2人とも気にしないで」

微笑む千春さん。


本当に人違いなのかな? 事情を知らない僕にはどうしようもない。

明日、田沢さんに訊いてみよう。



 翌日。千夏さんと登校すると、田沢さんは教室にいた。

彼女の元に行こうとしたら、向こうから僕達のところに来る。


「古賀さんのお母さんと私のお母さんって知り合いなの?」

田沢さんが訊いてきた。


僕が訊きたいことを質問されるとは…。


「委員長、どういう事?」

千夏さんが説明を求める。


「昨日帰った後、概要のプリントをお母さんに見せたのよ。そうしたら『はるちゃんが出るんだ!』って言ったの。知り合いじゃなきゃ、そう呼ばないでしょ?」


鈴華さんは千春さんを知っている。けど千春さんは鈴華さんを知らない。


この認識のズレは何だ? 千春さんがとぼけるはずはないから、理由があるはず。


千春さんと鈴華さんは、どちらも娘がいる。ということは結婚しているな。

結婚しているという事は、名字が変わるはず。


…ん? 名字? ひょっとしたら…。


古賀家は和人さんを婿養子にしたから、千春さんは名字が変わっていない。

(古賀家の秘密 にて)


だから鈴華さんは、千春さんのことがわかるんだ。


だけど、鈴華さんは結婚して名字が変わっている。

そうなれば、千春さんは鈴華さんのことを判別できない。


認識のズレの原因はこれか!


「田沢さん。お母さんの旧姓って何?」

姓が変わるって、ややこしくなるんだな…。


新島にいじまよ」


「玲、何でいきなり旧姓なんて訊いたのよ?」

千夏さんは話についていけないようだ。


「昨日、千春さんはさんを知らないって言ったけど、さんならわかるはず」


放課後に、新島鈴華さんについて千春さんに訊こう。



 放課後。僕は千春さんに真相を訊くことにした。


「千春さん、新島鈴華さんをご存じですか?」


「玲君。どうしてその名前を? もしかして…」

千春さんの反応的に気付いたようだ。


「はい。鈴華さんは結婚されて、からに変わったみたいです」


「やっぱり、私が知ってる鈴ちゃんなんだ…」

千春さんは安堵したように見える。


「鈴華さんとは、どういう関係なんですか?」


「大学時代の同い年の友達よ。前話したんだけど、覚えてないかしら?」


その話が出たのは、千春さん・千夏さん母娘の百合プレイを観た時だ。

(禁断の遊びが、僕達だけの関係を深める にて)


酒に酔った友達が、千春さんを襲ったことがあるらしい。

その友達が鈴華さんになるのか…。


「2人が最後に話したのは、いつなんですか?」


「お互い就職したあたりかしら。忙しくなってからは疎遠になったわ。

まさか、応援団という形で再会するなんて…」


「疎遠になったって、携帯で連絡できるわよね?」

千夏さんがようやく口を開く。


「千夏ちゃん。昔は今のように、誰でも携帯を持ってる訳じゃないのよ」


「携帯を…持っていない? そんな事あるの?」

千夏さんはピンと来ていないようだ。



 こうして、千春さんと一緒に応援する田沢鈴華さんについて知ることができた。

初めて千春さんに百合プレイをした人か…。


会いたいような、会いたくないような…。複雑な気分だ。


そして、体育祭当日を迎える。

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