応援団員 古賀千春

 「来月体育祭があるが、君達にお願いがある」

HRホームルームに担任が言い出した。


「保護者の方に応援団の一員になってもらいたい。どうだろうか?」


どうだろうか? って…。やるのは僕達じゃないし…。


「一員なんスか? 団長でも良いのでは?」

佐下さした君がツッコむ。


「それは保護者の方が大変だ。一員なら、見様見真似で何とかなるからな」


というより、何で保護者を応援団に入れるの? 佐下君、それを訊いてよ。


「先生、どうして保護者の方を応援団に入れるんですか?」

クラス委員長の田沢さんが質問する。


さすが田沢さんだ。頼りになるな~。


「おっと、その説明が先だったな。すまん。…生徒と保護者の交流のためだ」


「交流?」

田沢さんが訊き返す。


「そうだ。生徒は自分の親、保護者は自分の子供としか関わる機会がない。そこで応援団を通じて、他人同士の生徒と保護者が交流するんだよ」


う~ん。わかったような、わからないような…。


「幼稚園・保育園や小学校の運動会で、保護者参加型の競技がなかったか?

あれも生徒と保護者が関わる、貴重な機会なんだよ」


先生の言いたいことはわかったけど、応援団である必要ないよね?


「魅力的な保護者に応援されて、喜ぶ生徒はいると思うぞ。応援団で関わる事にも、意味はあるんだ」


「…確かに!!」

佐下君が納得している。


千春さんに応援されたい下心が、手に取るようにわかる…。


「はぁ…」

千夏さんがため息をつく。


…チャイムが鳴る。


「みんな、応援団の件頼む。話だけでもしてほしい…」

担任はそう言って、教室を出て行った。



 「玲、どう思う?」

休憩時間、千夏さんが僕に訊いてくる。


千春さんに話すのはもちろんだけど、聞いた後の反応についてだろう。


「千春さん、やる気になるだろうね」


「アタシもそう思う…」


「千春さん、応援団やってくれそうなの!?」

佐下君が、僕達の会話に強引に混ざってきた。


「佐下、割り込まないで!!」

千夏さんが彼に対して、追い払う動作をする。


「可能性の話だよ。仕事があるかもしれないし、受けられるかどうか…」

放課後に、千春さんの予定を訊かないと…。


「可能性があるだけでも嬉しいぜ。千春さんがジャンプしながら応援して、ぷるんぷるん揺れるところが見られるかも…。ぐへへ」


佐下君がにやけている。ひどい顔だから、何とかしたほうが…。


「ちっ…」

舌打ちをする千夏さん。


爆乳の千春さんがジャンプして揺れるもの。…言うまでもない。


「古賀さんが怖いから退散するわ」

言葉の通り、佐下君は離れていった。


「…佐下さしたしたい」

千夏さんが独り言を言う。


親父ギャグだから、タイミング次第では笑うべきだと思う。

しかし、今の千夏さんは険しい表情をしている。


下手したら、本当にやりかねない…。


もし千夏さんが暴れたら、僕が頑張って止めよう。彼氏として。



 放課後、応援団の件を千春さんに話すことにした。


「応援団? 面白そうね♪」


思った通り、千春さんはノリノリに見える。


「母さん、応援団に出るの止めてくれない?」

真面目なトーンで言う千夏さん。


「どうして?」


「それは…」

千夏さんは言葉を詰まらせる。


彼女には言いづらいことだし、ここは僕が説明しないとな。


「この間、千春さんの画像を佐下君にあげたの覚えてますか?」


「もちろんよ」


「その佐下君が、応援する千春さんを想像して嫌らしいことを考えまして…」


「男の子ですもの。想像ぐらいするでしょ?」

千春さんは戸惑う様子を全く見せない。


「さすがに手を出されたら困るけど、想像だけならいくらでも♪」

画像の時も思ったけど、器大きいよな千春さん。


「…千夏ちゃんが私に来てほしくない理由って、そういう事なの?」


「はい」

佐下君の妄想から、千春さんを守るためだ。


「心配してくれてありがとう。千夏ちゃん♪」

千春さんは抱き着く。


「母さん、苦しいって…」


千夏さんの気持ちは、きちんと千春さんに届いたようだ。



 「予定は合うし、参加できることを担任の先生に伝えてちょうだい」

千春さんが僕達を観て話す。


「わかりました」


「わかったわ」


「でも私、うまくできるかしら?」

不安そうにする千春さん。


「それは心配ないんじゃない? って言ってたし」


「簡単なことしかやらないと思いますよ」

練習する時間なんて、ほとんどないでしょ…。


「それなら良かったわ♪」



 こうして千春さんは、体育祭当日限定で応援団に入ることになった。


実際に応援すれば、千春さんは僕達のクラスだけでなく、全校生徒に知られる。


それだけでも僕にとっては一大事なのに、千春さんは体育祭で意外な女性と再会することになるんだ…。


<<次回から数話、体育祭編になります>>

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