学校の救世主は保護者?

 担任が受け持つ現代文になった。先生はプリントを渡した後、ため息をつく。

何か悩みがあるから、プリント学習になったのかな?


「先生、どうかしたんスか?」

佐下さした君が先生を気遣う。


「先生のことより、プリントやってるのか? 佐下?」


「先生が気になって、プリントどころじゃないです」


サボる口実を見つけた感じか…。


「まったく、お前らしいな」


先生は少し笑った後、話し出した。


「学校というのは、同じことの繰り返しだろ? だから外部の人を呼んで、生徒達の刺激になってもらいたいんだが、人手不足と予算不足が重なってな…」


この間の『相談員募集』もそういう意味だったのか…。


「前の『相談員募集』は最後の手段だったんだ。保護者の方も忙しいに決まっているからな。授業参観のような、1日だけならともかく…」


先生も色々苦労してるんだなぁ…。


「すまん、みんな。先生のようなおじさんの愚痴を聞いてもらって…」


先生がクラスを見渡す。先生を観てる人もいれば、気にせずプリントをやっている人もいる。僕は前者だけど…。


「つまり1日だけのことなら、保護者の方にお願いできるって事っスよね?」


「あくまでだけだ。それだって、難しいんだぞ」


この前やった授業参観だって、来た保護者は5人だけだった。

全30人のクラスにもかかわらずだ。


先生の言う通り、保護者も忙しいことになるね。

授業参観だから少ない可能性はあるけど…。


「佐下。話は終わりだ。いい加減プリントやってくれ」


「わっかりました~!」



 現代文が終わり、休憩時間になった。

千夏さんが僕を観る。何か言いたそうだ。


「あいつが保護者の話をするってことは、よね?」


「うん、絶対そうだよ」


千春さんと会える機会を増やそうとしている。

動機が単純すぎて、逆に不安になるレベルだ。


「学校が人手・予算不足のことって、話す必要あるのかしら?」

千夏さんがつぶやく。


千春さんに「保護者へのお知らせは遠慮なく教えてね♪」と言われている。

この件も含むんだろうか?


「さぁ…」

具体的なお願いじゃないしなぁ…。



 放課後。千夏さんの家に行くと、千春さんがリビングで待っていた。


「やっと帰ってきたわね。ねぇ、一緒にお菓子食べましょ♪」

袋菓子が2種類ある。これらを3等分するわけか。


「いいわよ」


「はい」


千夏さんと僕はそれぞれ返事し、自分の皿が置いてある席に座る。


千春さんは赤系・僕は青系・千夏さんは黄色系の食器なので、間違えようがない。

(彼女と一緒に宿題をやる にて)


千春さんが袋菓子を開け、3等分にする。

それから全員食べ始める。


「母さん」


「何かしら?」


「なんかね、学校が人手と予算が不足してるんだって」


千夏さん、話すことにしたのか。隠すことではないけどさ…。


「そうでしょうねぇ。どこも大変なのよ…」


「もしだけどさ、授業参観みたいな1日だけの何かがあったらどうする?」


「シフトが入ってなければ、参加するつもりよ♪ 助け合わないとね」


「そっか…」


千夏さんは複雑だろうなぁ。千春さんと佐下君が出会う機会が増えるからね…。


相談員の件は1日で済まないので、千春さんであっても協力しなかったのだ。


「千夏ちゃん。そんなこと訊くって事は、何かあるの?」

ワクワクした様子を見せる千春さん。


「違うわよ! 『もし』って言ったじゃない」




千夏さんの『もし』が現実になることを、まだ誰も知らない…。

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