生徒の相談員 古賀千春?

 朝のSHRショートホームルームに、プリントが配られた。

そこには<<相談員募集>>と書いてある。


なんだこれ? そう思った時、担任が説明を始めた。


「近年、生徒のうつ病や不登校といった、メンタル面の問題が多発している。

我が校も相談員を募集しているが、人手不足で集まらなくてな…」


ニュースで良くやってるよね。人手不足で困ってる業界があれこれ…。

他人事だと思ってたけど、僕の周りにも関係するのか。


「そこで保護者の有志に、相談員をお願いすることにした。少ないが報酬を出すと、校長がおっしゃっていた。君達もぜひ、保護者の方にお願いしてもらいたい」


母さんがこんなことする訳ないから、プリントを見せる必要はない。


千春さんに伝えるのかな? 僕は隣の千夏さんを観る。

…首を横に振ったぞ。どうやら伝えないようだ。


その後、すぐに1限が始まる…。



 1限が終わり、休憩時間になった。

佐下さした君が僕の元に来たぞ。なんとなく予想できる自分が嫌だ…。


「今村君、千春さんを相談員に勧誘して欲しい!」

頭を下げてきた佐下君。


思った通りだった。わかりやすくて助かるけど…。


「あんたのことだから、嫌らしいことを母さんに話したいんでしょ?」

千夏さんが佐下君を、ゴミを見るような目で見る…。


「そんな事ないぜ。『大人のとかテクニック』を教えて欲しいんだよ」


遠回しにエロいことを言っているな…。


「玲。相談員のこと、絶対母さんに話しちゃダメよ!」

念を押してくる千夏さん。


「わかってる」


佐下君の件がなくても、話す気なんてない。

だって千春さんが相談員になったら、一緒に過ごせる時間が減るじゃないか。


そんなの僕には耐えられない。きっと千春さんも同じはずだ。


「えぇ~、そんな冷たいこと言わないでくれよ」

佐下君は諦めない。


「あんたに母さんの画像が渡った事自体、アタシは納得してないの。これ以上、ワガママ言わないでくれる?」


千夏さんは佐下君を睨みつける。


「直接相談がダメなら、メールとかはどうだ?」

まだ諦めないのか…。


「あんたと連絡先を交換するとか、あり得ないわ!」


気軽に送信できるから、数が膨大になりそうだな…。


「じゃあ手紙は? これなら連絡先を交換しなくても済むぜ!」


「…玲。このバカ、何とかして」

千夏さんは頭を抱えてしまった。


「千春さん、短時間だけどパートに行ってるんだ。家事と両立しないといけないし、相談員をやる余裕なんてないはずだよ」


「そうなのか…。俺の相談に乗るのは無理っぽいな…」

佐下君はようやく諦めたようだ。自分の席に戻っていく。


ちょっと可哀想な気がしてきた…。


「玲、あいつに同情なんてしなくて良いから。つけあがるだけよ」


「そうだね…」


仮に真面目な相談があるとしても、千春さんじゃなくて良いはずだ。

まずは自分の親。それから担任とかになるのが自然だと思う。



 放課後に千夏さんの家に向かうと、千春さんはリビングの机に伏せて寝ている。

やっぱり、仕事と家事の両立は大変だよね…。


「疲れてる母さんに、相談員なんて無理な話よ」


僕もそう思う。千春さんの負担が増えることはしたくない。


「……相談員って何のことかしら?」

寝ていたはずの千春さんが、僕達を観る。


「千春さん、寝てたんじゃ?」


「2人の足音で起きたのよ。それよりも、相談員のこと教えて」


千夏さんはカバンからプリントを取り出し、千春さんに見せる。


「……力になりたいけど、厳しいわね」


引き受けなくて良かった…。


「そうだと思ったから、教えるつもりはなかったんだけど…」


「千夏ちゃん。できるかできないかは、私が判断することよ。だから保護者へのお知らせは、遠慮なく教えてね♪」


「わ…わかったわよ」


「…いけない。そろそろ夕飯の準備しないと…」

時計を観た千春さんは、キッチンに向かう。


千夏さんが手招きをした。部屋に来いって意味だな。付いていこう。



 「母さん、引き受けなくて良かったわ」

千夏さんは、僕の目の前で着替え始める。


「そうだね…」


佐下君が相談したいことがあるって知ったら、変わったのかな?

その事を言うつもりないから、真相は不明だけど…。


「玲。いくらアタシが目の前で着替えてるからって、ガン見しすぎ♡」


「ご…ごめん」

視線をそらす時間を入れるべきだったな…。


「別に良いけどさ♡ 」


着替え終わった千夏さんが僕を見てからベッドに上がったので、後を追う…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る