クラス委員長 田沢 秋穂

 千夏さんと一緒に登校中、彼女が突然声を上げる。…何だろう?


「……ブラし忘れた!」


あの件以降、千春さん・千夏さん共に、家でブラをしなくなった。

(ブラを着けてみよう、そして……? にて)


その状態で制服を着たのか…。


「でもさ、制服着てればブラ見えないよね?」

クラスメートにバレることはない。


「今日、体育があるじゃない!」


「あ……」


体操服の上は白だから、ブラが透けやすい。

なのでブラを着けてない千夏さんは、周りにバレる可能性がある。


「千春さんに、車でブラを持ってきてもらうとか?」


そんな事で、千春さんを頼るのは申し訳ないけど…。


「母さん、アタシと父さんを見送った後に短時間のパートに行ってるのよ。だから連絡できないわ」


そうなのか…。だったら、どうするべきかな?


「アタシ、一旦家に帰ってブラを着けるから、玲は先に学校に行って!」


「良いの? 一緒に行かなくて…」


「ブラを着け終わったら、すぐ行くわよ。…じゃあ、後でね」

千夏さんは家まで引き返す。


僕がノーブラを勧めたから、こうなったのかな?

無関係とはいえないから、ちょっと罪悪感が…。



 自分の席でスマホをいじりながら、千夏さんを待つ。

……もう学校に着いても良い時間のはず。 何かあったのか?


「今村君、ちょっと良いかしら?」


もうすぐ朝のSHRショートホームルームが始まるあたりで、僕に声をかける女子がいた。


「…田沢さん。どうしたの?」


クラス委員長の田沢秋穂たざわあきほさんだ。

真面目な性格で、委員長に自ら立候補した。


今まで話したことないんだけど、何の用だろう?


「古賀さん。まだ登校してないけど、今日休みなの?」


僕と千夏さんは学校外はもちろん、学校内でもほぼずっと一緒にいる。

そのため、クラスメートも僕達が付き合っていることを知っている状態だ。


僕1人で登校したことに対して、田沢さんは違和感を抱いたようだ。

でも理由を正直に話せないな。どうごまかそうか?


「ううん、寝坊だよ。もうすぐ来るって連絡があった」


「そう…。それなら良かったわ。邪魔して悪かったわね」


「気にしないで」


田沢さんは自分の席に戻っていった。


それからすぐ、千夏さんが登校してきた。彼女の席は、僕の隣だ。


「思ったより、遅くなっちゃった…」


「千夏さん、遅かったね。なんかあった?」


「別に? ブラ選びで迷っただけよ」


見られるかもしれないから、ブラを着けに戻ったんだ。

ブラ選びに迷ってもおかしくない…よな?



 朝のSHRが始まり、連絡事項を聞く。…大したことは言ってないな。

その後、1限が始まる。



1限後の休憩時間になった。


「玲。外すのに慣れると、着けるのが辛いわ…」


ブラ紐の煩わしさは、着けてみるとよくわかる。


「ゴメン、僕が余計なことを言ったせいで…」


「あんたのせいじゃないわよ」


「今村君、古賀さん。訊かせてほしいんだけど…」

田沢さんが僕達にそう言いながら近付く。


「な…なに?」

田沢さんが、1度ならず2度も話しかけてくるなんて…。


「今村君、さっき私に嘘付かなかった?」


「え?」

さっき言った寝坊の何がおかしいんだ?


「古賀さん、寝坊したから遅い登校だったんでしょ? にもかかわらず、髪は整っているし、慌ててる様子を見せてないのよ。おかしいじゃない」


「……馬鹿正直に話す必要ある?」

千夏さんが田沢さんを睨む。


穏便に済ませて欲しいんだけど…。


「確かにそうね。でも嘘を付くってことは、やましい何かを隠してるんじゃないの?

それがクラスに影響を与える可能性があるわ」


「ありえないわね!」

断言する千夏さん。


「なぜ?」


「アタシは登校する間、誰にも会ってないしどこにも行ってないのよ。余計な物も持ってきてない。誰に何の影響を与える訳?」


「それは…」

言葉を詰まらせる田沢さん。


「用がないなら、もう良いかしら? 玲と話したいんだけど…」


「邪魔してごめんなさい。でも、嘘を付いたことは覚えておくわよ」

田沢さんはそう言って、僕達から離れた。


僕達の印象が悪くなったけど、大丈夫かな? 気になってしまう。


「まったく、何なのよ…」

千夏さんが不満をこぼす。


「寝坊って言ったのは、失敗だったかも。ゴメン」

他の言い訳にしていたら、こうならなかったかもしれない。


「玲のせいじゃないって。ブラを着け忘れたアタシが悪いんだし…」



 「千夏さん、さっき田沢さんを睨んだでしょ?」

何であんな喧嘩腰だったのかが気になる…。


「別に良いじゃない。あの人、何か気に入らないのよ」


そうなんだ。 真面目で、クラスのことを考えてる人だと思うけど。

それを千夏さんに言う必要はないので、黙っておく。


「ああいうタイプは、風紀委員にも向いているでしょうね。

もしかして、昔の母さんもあんな感じだったのかしら?」


「…どうだろうね?」

タイムスリップでもしない限り、確認するのは不可能だ。



千夏さんと田沢さんの件は、これだけでは済まなかった…。

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