風紀委員という便利な存在

 千夏さんの部屋で漫画を読んでいる僕達2人。

お互い別の作品を読んでいる時、突然千夏さんが声をかけてきた。


「玲、うちの高校って風紀委員いたっけ?」


「どうだろう? 観た記憶ないよ…」


「校門前に立ってる先生が、すごく短いスカートの女子に注意してるのを観たことあるけど、あれこそ風紀委員がやることじゃない?」


「そうかも…。じゃあ、うちの高校には風紀委員はいないか…」


僕はルールを守る、地味で普通の高校1年だ。風紀を乱すことはしない。

……というか、千夏さんは何でいきなり風紀委員のことを訊いてきたんだ?


「千夏さん。なんで急に風紀委員のことを訊いたの?」


「今読んでるラブコメで風紀委員が風紀を乱すシーンがあったから、ちょっと気になっただけよ」


「そうなんだ…」

うちの高校の風紀が乱れることを考えたのかな?



 「漫画に出てくる風紀委員って、登場した時は真面目でも、後からおかしくなることが多いよね」


千夏さんがあるあるネタを話し出す。


「そうそう。やたらエロい妄想をしたりさ…」

表向きはしっかりしていても、考えていることは過激だったりする。


「一番風紀を乱してるのは風紀委員自身、というオチは何度も観たわね」


「ギャップ萌えになるから、使いやすいんじゃない?」

真面目な人がエロいことを考えるという、ギャップが良いんだろう。


「…そういう事か。エロい妄想なんて誰でもするでしょ」


千夏さんが言うと、妙に説得力がある…。


「風紀委員って、おもちゃにできる便利な存在かもね」


「それ、風紀委員の前で言わないでよ」

喧嘩を売っているようにしか聞こえないし。



 「そういえば、母さんが高校生の時は、何委員だったのかしら?」


「さぁ…。僕は聞いたことないよ」


「今から訊きに行きましょうよ」


僕達はリビングにいる千春さんの元に行く。



「母さん」


「あら、どうしたの? 千夏ちゃん、玲君?」

千春さんはアイロンがけをしていた。


「母さんって、高校生の時なんかの委員やってた?」


「ええ。風紀委員やってたわよ」


「マジで!?」


「本当ですか?」


千夏さんと僕がそれぞれ感想を言う。そんなイメージないんだけど…。


「…2人の反応が気になるわね。自分で言うのもなんだけど、若い頃は私真面目だったのよ。恋愛しないで、勉強漬けの毎日だったわ~」


今の千春さんがお茶目なのは、高校生の時に抑圧されていた反動?

…いや、何とも言えないな。


「何でそんなに真面目だったのよ?」

千夏さんが質問する。


「父が厳しかったからよ。『テストで各教科90点以上は取れ!』って嫌になるほど聴かされたから、必死に勉強したの。それに高校生の時は、この胸をジロジロ見てくる男子がうっとうしかったから、恋愛する気にならなかったのよ」


爆乳がコンプレックスになるんだな。今の千夏さんが聴いたらどう思うか…。


「ジロジロ見られるほどの胸があって羨ましいわ…」

やっぱり、千夏さんはいじけてしまった…。


「保坂高校に風紀委員はいるの?」

千春さんが訊いてきた。


というのは、僕と千夏さんが通う高校のことだ。


「それを千夏さんと話してたんですけど、多分いないんですよ」


「そっか…。時代の変化かもしれないわね。昔より個性を大切にしてるから」



 「……それよりも、私が風紀委員だったことを知った時の反応について、聴かせてちょうだい」


「いや…それは…」

さっき風紀委員を小馬鹿にしたからな。とはいえ、千春さんには言いづらい。


「玲、逃げるわよ」

千夏さんが僕の耳元で囁く。


「気にしないでください。では、僕達はこれで」


「ちょっと!? 玲君、千夏ちゃん…」


アイロンがけをしている千春さんを置いて、僕達は再び千夏さんの部屋に戻った。

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