古賀家の秘密
学校帰りに、千夏さんの家に寄る僕。これが当たり前の行動になっているので
冗談抜きで、この家は第2の実家だな。とても居心地が良い。
そう思えるのは、千春さんの気遣いのおかげだ。本当にありがたいよ。
千夏さんと共にリビングに向かうと、千春さんは電話中だ。相手は誰なんだろう?
千春さんは僕達を観た後、電話相手に言った。
「千夏ちゃん、ちょうど帰ってきたから代わるわね」
相手は、千夏さんとも面識があるのかな?
千夏さんも、千春さんを観る。
「おばあちゃんから電話よ。千夏ちゃんの声が聴きたいって」
千春さんは受話器を口元から遠ざけた後、小さめの声で言う。
「わかったわ」
千夏さんは千春さんから受話器を受け取った後、話し出す。
千春さんはリビングの机を観た後、僕に目配せしてきた。
電話のことで話があるのかな?
そう思った僕は、千春さんと向かい合うように座った。
「今の電話、私のお母さんからなの。『使わない物を送る』という話になったから『受け取るわ』と答えた時に、2人が帰ってきたのよ」
「そうなんですか」
千夏さんのおばあちゃんの話は、今まで1度も聴いたことがないな。
良い機会だし、色々訊いちゃおうかな。
「千夏さんのおばあちゃんの名前を訊いても良いですか?」
「もちろん。
「名前で苦労? どういう事ですか?」
名前に良いも悪いもあるかな?
「昔って、女の子の名前に『子』が付くことが圧倒的に多かったの。『子』が付かないお母さんは『仲間外れにされたことがある』って言ってたわ」
名前が原因で仲間外れにされるのか…。僕には想像できないなぁ。
……待てよ、じゃあ母さんとおばあちゃんの名前って…。
「僕の母は『
「そういう事ね。私が生まれたあたりは『子』が付かない女の子が多くなったから、私はまったく苦労してないわ」
「それは良かったです」
「おばあちゃん、アタシね。彼氏ができたんだよ!」
電話越しに、おばあちゃんに嬉しそうに伝える千夏さん。
「最後に話したのは、
千春さんが補足する。
あの時はまだ『古賀さん』呼びだったし、ちょっと話した程度だったな。
それが付き合うだけでなく、何度も体を重ねる関係になった。
当時の僕が知ったら驚くだろうな。絶対。
「じゃあね、おばあちゃん。バイバイ」
そう言って、受話器を置く千夏さん。
その後すぐに、僕の隣の席に座った。
「おばあちゃん『玲に会いたい』って言ってたわよ」
僕に微笑みながら言う千夏さん。
「千夏さん、僕のこと話したんだね」
仲が良いのは母娘だけでなく、おばあちゃんと孫もなのか。本当に良い関係だ。
「何か問題がある訳? …あんた、アタシと付き合っていることを隠したいの?」
明らかに不満そうな顔をする千夏さん。
「そんな訳ないじゃないか! ただ、おばあちゃんにそういう話をするのは珍しいと思っただけで…」
少なくとも、僕は絶対に話さないな。
「そういう事ね。アタシ、おばあちゃんとはよく話すから…」
「おじいちゃんは?」
訊いていいか悩む前に、つい口走ってしまった。
「あの人は頑固!!」
千春さんが突然口を挟んできた。
怒りを露わにした千春さん、初めて観たよ。
「私の結婚に強く反対したのよ。『古賀姓がなくなる』なんて言ってね。
「そんな事が……」
そういえば、和人さん言ってたな。
―――
「交際相手について、親が口出しするのはおかしいと思わないか? 僕が千春を嫁にもらう時、お義父さんに反対されてね。何とか説得して許してもらえたが、親とはいえ、そこまで干渉するべきなんだろうか?」
(彼女の父、古賀和人 より)
―――
あの時の説得って、和人さんが婿養子になることだったのか。
そんな事があったら、干渉に疑問を持ってもおかしくない。
婿養子でも『嫁にもらう』って言うのかな?
詳細を説明するのは面倒だから、それで話を通したかもしれない…。
「私は一人っ子だから、私が嫁入りすれば『古賀』姓はなくなるわね。けど、名字を残すことってそんなに重要かしら? 好きな人と一緒に、幸せに過ごすほうが大切だと思うの。それ以外にも、父とは考えが合わないことが多くてね…。
だから実家に戻っても、私からは話しかけないわ!」
千春さんの興奮が収まらない様子に圧倒されてしまった。
思うところがたくさんあるんだろう。
「……ゴメンね、玲君。つまらない話を聴かせちゃって」
冷静さを取り戻した千春さんが謝ってきた。
「いえ…」
千春さんにおじいちゃんの話は絶対NGだな。今後気を付けよう。
「おばあちゃんの家は、ここから近いんですか?」
おじいちゃんと言うと、千春さんがどういう反応をするかわからないからね。
なるべく、おばあちゃんに置き換えるようにしよう。
「車で1時間ぐらいかな。近いのか遠いのか微妙よね」
千夏さんが答える。
「そのぐらいなら、近いわよ。新幹線や飛行機を使わなくても良いんだから」
千春さんが答えて、この話題は終わる。
今日は古賀家の秘密を知った感じだな。
千春さんのご両親に加え、和人さんが婿養子だったなんて…。
情報量が多いから、整理するのが大変だ。
でも、この家のことをもっと知ることができて嬉しいな。
それにしても、千夏さんのおばあちゃんの千鶴さんか。どういう人なんだろう?
……胸の大きさは、千春さん・千夏さん、どっち寄りかな?
大きさが対照的の2人だ。千鶴さんに会えれば、詳細がわかるかも?
「…玲君、嫌らしく胸を観て…。正直に言って良いのよ?」
千春さんが子供をあやすように言う。
「え?」
チラ見したつもりだったのに、バレてる。
「玲、たまってるの? ……仕方ないわね~」
そう言って立ち上がる千夏さん。言葉は面倒そうでも、態度はワクワクした様子だ。
「私もさっきのストレスを解消したいし。良いよね? 玲君♪」
千春さんも立ち上がる。
3人は、千春さんのベッドに向かう。
後日、千鶴さんから千春さん宛てに、ダンボールに入った荷物が届いた。
午前中に届いたのに、わざわざ僕と千夏さんが揃うまで待ってくれたようだ。
中身は…、キレイなタオルが大量にある。
サイズはバラバラだけど、カラバリは豊富だ。
「これも箸とかのように、色分けしたほうが良いかもしれないわね…」
千春さんがつぶやく。
全てのタオルを取り出した千春さん。
ん? ダンボールの底に何かあるな?
……2封の封筒?
千夏さんも気付いたようで、それを取り出す。
「『千夏ちゃんへ』『千夏ちゃんの彼氏さんへ』って書いてある」
僕宛て? 何で会ったことがない人から、手紙をもらうんだ?
「よくわからないけど…、はい」
僕は千夏さんから『彼氏さんへ』の封筒を受け取って読んでみた。
千夏ちゃんの彼氏さんへ。
私が知る限りですが、あなたは千夏ちゃんの初めての彼氏になります。
どういう人なんでしょうか? 会ってみたいですね。
千夏ちゃんと同じ高校1年と聴いているので、遊び盛りだと思いますが
彼女をきちんと守ってあげて下さい。
彼女を守るのは、彼氏であるあなたにしかできない事ですから。
追伸 千夏ちゃんの心だけでなく体も満足させられるのが、1人前の彼氏ですよ♪
……最後、どういう事だ? 体も満足って、僕が思ってる事で良いのか?
さすが千春さんのお母さん。目の付け所が同じだ。
僕は隣で手紙を読んでいる千夏さんを観る。
…ちょっと顔が赤い? 僕と似たようなことが書いてあった?
「彼氏を気持ち良くできるのが、1人前の彼女か…」
千夏さんは独り言を言う。
隣にいる僕には聴こえている。やっぱり、似たようなことが書いてあったみたい。
「玲、今すぐアタシの部屋に来て!」
千夏さんは僕を部屋に招く。
早速実践するつもりか?
千春さんはタオルの片付けで忙しそうだ。声をかけるのは無理だろう…。
僕達は千夏さんの部屋に向かう。
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