彼女と一緒に宿題をやる

 翌日の日曜日、僕は千夏さんの家がある5階に着いた。今日は千夏さんと一緒に数学の宿題をやることになっている。難しくはないけど、量が多い。


エレベーターを降りて間もなく、曲がり角から見覚えがある男性が、僕のいる方に曲がってきた。あの人は……。


「おや? 今村君じゃないか。元気か?」


「あ…はい」


千夏さんのお父さんの和人かずひとさんだ。

1回しか会ったことがないから、緊張するな…。


和人さんはエレベーターの下ボタンを押してから僕に言う。


「そんなに緊張しなくていいだろう? 前言った通り、千夏を悲しませなければ

君達の交際を温かく見守るんだからな」


「はい…」


…気まずいな。早くエレベーター来てくれ。

と思ったら、案外早く来てくれた。ありがとう、エレベーター。


「じゃあな、今村君」

和人さんはそう言いながらエレベーターに乗る。扉もすぐ閉まった。


僕は頭を下げて、エレベーターが下がるのを見守ってから

千夏さんの家に向かうことにした。



 千夏さんの家の前に着いた。呼鈴を押したら、すぐに千夏さんが出てきた。


「玲、来てくれてありがとね」


「気にしないで。当然のことだよ」


僕は玄関で靴を脱いだ後、千夏さんの部屋に向かう。



 千夏さんの部屋には学習机があるけど、一緒に勉強するので

大きめの折り畳み机に隣同士で座ることになった。


「アタシ、数学は苦手だから、玲に教えてもらわないとキツイわ」


「ちゃんと教えるから安心して、千夏さん」


隣同士に座ったのは教えるためだ。向かい合うと反転して見づらいんだよね。


僕は数学を得意科目だと思っている。公式さえ覚えれば、何とかなるからね。

その反面、暗記科目は苦手だ。漫画のことを覚えるのに苦労する訳だよ。


一方の千夏さんは、暗記科目を得意としていて、数学が一番嫌いらしい。

僕からしたら、千夏さんの暗記力は羨ましいよ。


その暗記力は、漫画のことを覚えるのに有効活用されている。


「ね~、玲、ここってどうやって解くの?」

千夏さんがわからない問題をペンでトントン叩いている。


「ここはね…」


千夏さんがペンで叩いている問題は、プリントの下の方に書かれている。

その辺を観ると、千夏さんの胸が目に入るんだよな~。


僕は見ないように意識しながら、頑張って教えた。

余計な気を遣ったせいで、かなり疲れたよ…。



 早めに終わった僕は、千夏さんを見守ることにした。

解くスピードは遅めだけど、僕に訊く頻度は減っている。


僕が教えたことは無駄になっていない。本当に良かった。



そう思ってどれぐらい経過したかな?

扉がノックされ、千春さんが顔を出す。何の用だろう?


「2人とも、宿題は順調かしら? お昼できたけど、食べに来られる?」


「…できた~! …わかったわ、今から行く」

ちょうど宿題が終わった千夏さんは立ち上がった。


「玲君は?」


「え? 僕の分もあるんですか?」

炒飯をご馳走になった時は、買い物を手伝った礼だ。今回は何もしてないのに。


「当たり前でしょ。…もしかして、食べたくないとか?」

残念そうな顔をする千春さん。


「そんなことないです。ありがたく頂きます」


「良かった♪」


千春さんは笑顔になった。って言ってから、感情表現が豊かになった気がする。そのおかげか、若々しさに磨きがかかったかも。


僕は千夏さんの後を追って、リビングに向かう。



 リビングに着くと、既に食器が机の上に置いてあった。

メニューは何だろう? …確認したところ、ホワイトソースがかかったパスタだ。


おいしそうだけど、箸が置いてあるぞ。フォークじゃないの?


「玲君の家では、フォークで食べるの?」

箸を見つめる僕が気になったのか、キッチンにいる千春さんが訊いてきた。


「はい」


「ウチは箸よ。フォークってあまり使い道がないじゃない」

既に着席している千夏さんが言う。


…確かにそうかも。最後に使ったの、いつだっけ?



箸を観察すると、色が違う事に気付く。

青い箸・赤い箸・黄色の箸、それぞれ違う色が食器の前にある。


千夏さんは黄色の箸があるところに座っている。

僕は青か赤、どっちなんだ?


「…玲君にはまだ説明してなかったわね」

キッチンにいた千春さんが机近くまで来た。


「炒飯を出した時、玲君の食器や道具がないことに気付いてね。新しいのを買う時に玲君のも買ったのよ。赤系は私、青系は玲君、黄色系は千夏ちゃん、緑系は和人さんになってるから、覚えておいてね」


箸はわかるけど、皿の青いところはどこだ?

…ホワイトソースがかかってるけど、青い花が少し見える。あれのことか。


「わざわざ僕の分まで買ってもらえるなんて…」


「良いのよ。というか、玲君の食器がないと私が納得できないの」


千春さんがそこまで言ってくれるなら、ありがたく使わせてもらおう。


「ありがとうございます。…そうだ、その説明を聞いて、和人さんは何か言ってましたか?」


僕と千夏さんの交際に何も言わなくても、千春さんに何か作ってもらう事には

意見を言ったかもしれない。


「和人さん? 『わかった』としか言わなかったわよ?」


この件にも何も言わないのか。あの人、放任主義なのかな?



*****

ギャグパート(パラレルワールド)


 さっきの説明通り、青い箸のところに座る僕。

千春さんは僕の前。千夏さんは隣になる。


全員着席したところで、みんなで「いただきます」を言う。


食べようと思った時、ある疑問が浮かんだ。


えのき・マッシュルーム・しめじ等々…。


何でこんなにキノコが多いんだ?

この家のパスタは、これが普通なのかな?


それでもおいしそうなのは変わりないので、食べるけどさ。


「母さん、今日のパスタ、キノコ多いね」

千夏さんが指摘する。あれ? これがいつも通りじゃないの?


「急にキノコが食べたくなってね」


キノコって急に食べたくなるものか?


「わかる。アタシもそういう時あるわ」

千夏さんが同調する。悪いけど、僕はそう思ったことはない。


「千夏ちゃんは大きいキノコと小さいキノコ、どっちが好き?」


千春さん、何を訊いているの?


「大きいキノコね。立派でうっとりするわ」


キノコにうっとり? 意味が分からない。


「そうね、よくわかるわ…。けど、小さいキノコも可愛いと思わない?」


キノコが可愛い? さっきから千春さんの質問がおかしくないか?


「わかるけど…、それだと満足できないのよね~」


小さいキノコは食べ応えないよね。



さっきからキノコトークで盛り上がっている千春さん・千夏さん母娘。


「2人とも、キノコが好きなんですね。僕もです」


そう言った瞬間、2人が「え!?」と言って僕を観る。

…僕、なんか変なこと言った?


「玲が他のキノコを……食べた?」

千夏さんが考え込んでいる。


「玲君、自分のキノコを大切にしてね♪」


? さっきからこの2人は、何を言っているんだ?



 謎のキノコトークが終わり、黙々と食べる僕達。

すると突然、股間に気持ち良い感触が。何なんだ?


どうやら、千春さんが足を伸ばして僕の股間をいじっているようだ。

気持ち良いけど、くすぐったいな。


「玲、さっきから落ち着かないけど、どうかした?」

千夏さんが僕の顔を観る。


「何でもないよ」


千春さんは僕の股間を足でいじりながら、平然とパスタを食べている。

僕も気持ち良いのを我慢しながら、パスタを食べる。


……気持ち良さが限界だ。僕のが元気になっていて、体がつい動いてしまう。


「玲! さっきから貧乏ゆすりをして。…何なの?」

千夏さんが僕の脚を観る。


「……あんた。お昼を食べてるだけなのに、何で大きくなってるのよ」


千春さんの足は、うまいタイミングでいじるのを止めている。

千夏さんからすれば、何もせず大きくなっているように見えるよね。


「玲君のが大きくなったのは、のせいね」

ドヤ顔で説明する千春さん。


「昼勃ち?」

千夏さんは聞き返す。


「そう。男の子はね、朝勃ち・昼勃ち・夕勃ち・夜勃ち、最低4回は勃つのよ」


一日4回も勃ったら大変だよ。


「でも母さん、そんなの聞いたことないわよ」


当然でしょ。千春さんの作り話なんだから。


「一日4回も勃つのは、ごく限られた男の子だけなの。知られてなくて当然よ」


みたいなノリで言われても…。


「そうなんだ…、さすが玲ね。」


褒められても、全然嬉しくない…。


こうして、僕達はパスタを完食したのだった。

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