子供は何人欲しい?

 ある日の放課後、僕と千夏ちなつさんは一緒に帰っている。

帰り道の途中にある公園をちょっと通り過ぎたあたりだった。


少し先の曲がり角から僕達の方に曲がってきた女の子が、僕達を通り過ぎて

公園に入っていった。その子の歳は、6歳ぐらいに見えた。


その子を観た千夏さんは、思い出したように言った。


「あの子…、樹里じゅりちゃんだわ」


「樹里ちゃん? 千夏さん、知ってる子なの?」


「アタシの家の2件隣の、佐々木さんの子供ね。マンション内でたまに会うの」


「へぇ~」


「樹里ちゃん、1人でいたわよね?」

千夏さんは樹里ちゃんが通った曲がり角を覗いた。しかし、誰もいない。


「公園にお母さんがいるんじゃない?」

それなら、樹里ちゃんが1人でいるのも納得だ。


れい、観に行きましょう」


「うん」


公園まで引き返したところ、樹里ちゃんは1人でブランコを漕いでいた。

他は…、バドミントンをしている親子がいるだけだ。


「あれ? お母さん、いないわね…」


「そうだね…。樹里ちゃんに訊いてみたら?」


「そうするわ。…樹里ちゃん!」

千夏さんはブランコを漕いでいる樹里ちゃんに声をかける。


「あ…、千夏お姉ちゃん。どうしたの?」

ブランコを漕ぐのを止めて、僕達に駆け寄る樹里ちゃん。


「樹里ちゃん。お母さんはいないの?」


「ママ? もうすぐ来ると思うよ。『先行ってて』って言ったの」


もうすぐお母さんが来るとはいえ、こんな子供1人でうろついていいのか?

今の世の中、物騒だしね…。心配だよ。


「玲、あのさ…」


「もしかして、お母さんが来るまで待とうって事?」


「さすがアタシの彼氏。わかってるわね」


「千夏お姉ちゃん、その人は?」

樹里ちゃんが僕を指差す。


「こんにちは、樹里ちゃん。僕は今村玲っていうんだ。よろしくね」


「う…うん」


恥ずかしがりやなのか、知らない人だから警戒してるのか…。


「樹里ちゃん、アタシ達公園でのんびりしようと思うの。だから、気にせず遊んでいいからね」


「は~い」

樹里ちゃんは再びブランコを漕ぎだした。


公園で時間つぶしをすることになった僕達。

千夏さんと一緒にいる時間が増えたから良いか。



 「玲、子供って可愛いよね」


僕達は公園にあるベンチに座りながら、樹里ちゃんを見守る。


「そうだね」

お互い兄弟がいないから、子供は新鮮だ。


「子供……、何人欲しいか考えたことある?」


「え?」

千夏さんの突拍子もない質問に戸惑う僕。


「将来の生活って、漠然だけどイメージするものじゃない? 結婚して子供作ってとか…。その時のイメージで、玲は何人の子供がいてほしいのかなって」


「……ゴメン、全然考えたことない」

今のことしか考えてないからなぁ~。


「そっか…、いつか絶対また訊くから、その時はちゃんと答えなさいよね」


「わかったよ」

何でそこまで、返答にこだわるんだろう?



 しばらく樹里ちゃんを見守っていたら、1人の女性が公園に来た。


「あ、あの人が佐々木さんよ」


「そうなんだ。じゃあ、僕達の見守りは終わりだね」


僕達は揃って立ち上がり、そのまま帰ろうとしたら

樹里ちゃんに「バイバ~イ」と声をかけられた。


その挨拶で僕達に気付いた佐々木さんが僕達に頭を下げてきた。


僕達も頭を下げてから公園を出た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る