お茶目な母親の思い

 恋人になった僕と千夏ちなつさんに、ゴムとピルをプレゼントした千春ちはるさん。

何でそこまでするんだろう?



「千春さん、どうして僕達にこんなものを?」

僕は千春さんの真意を聴くことにした。


「それはね…、千夏ちゃんに望まない妊娠をさせないためよ」


「いや、それはわかりますが…」

それって恋人になった僕と千夏さんの問題で、彼女の母親が言う事か?


「玲君…、本当にわかっているのかな~?」


「…どういう事です?」


「だって君、あの時じゃない。私はごまかせないわよ」


あの時出した…? もしかして、あれのことか。


―――


千夏さんのお母さんは、部屋から廊下に流れてきたニオイを嗅いだ。

その後、何かに気付いた様子で僕を観る。


「今村君。千夏ちゃんのご奉仕はどうだった?」


(彼女に気持ちいい仕返しをされた より)

―――


「そこまで進んだ以上、違うのは中に出すか・外に出すかの違いだけ。若い子は後先考えず進みがちじゃない。私は先に手を打ったのよ」


「……」


僕は反論できなかった。千春さんの言い分は正しいからだ。

調子に乗って進み過ぎることは、十分考えられる。


「もし千夏ちゃんに赤ちゃんができたら、玲君責任とれるの?」


「絶対無理です」

僕は高1だ。自分のことで精一杯なのに、赤ちゃんのことなんて…。


「でしょ? 子供に正しい道を進ませるのも、大人の役目なのよ」


千春さんは娘の千夏さんだけじゃなく、僕のことも気にかけてくれるのか。

こういうことができるのが、大人なのかな? カッコよくて憧れる。


「千夏ちゃんにピルを渡したのは、二重の対策よ。ゴムを付ければ安心ではないからね。万が一問題が起きたら、ピルを飲むと良いわ」


なるほど。覚えておこう。


「た・だ・し、ピルは体に負担をかけるの。多用することは勧めないわ。『ピルがあるから、ゴムなしで良いや』なんて思わないように」


クギを刺されてしまった僕。千夏さんの負担になるなら、極力避けるべきだね。



 「妊娠か……」

千夏さんはそう独り言を言った後、リビングから出て行った。


「私にしては、真面目に話しちゃったわね」

千春さんは僕を観て、微笑んだ。


「いえ。教えていただき、ありがとうございました」

当たり前だけど、千春さんが大人であることを実感したよ。


「今話したことって、保健体育で習ったことだと思うけど?」


「そうだと思いますが、真面目に聞いてなかったもので…」


彼女ができるなんて考えたことなかったから、完全に他人事だったよ。


「そっか…。男子はそうかもしれないわね」



 「実は、玲君にお願いがあるのよ」


「何ですか?」


「私と連絡先、交換しない?」


僕の連絡先なんて知ってどうするんだろう?

とはいえ、悪用されることはないはずだ。


「良いですよ」


「ありがとう。……あのね、…」


急に恥ずかしがる千春さん。何なんだろう?


「玲君が千夏ちゃんの彼氏なのは、もちろんわかってるわよ。だけど、たまには私にも構って欲しいな~、…なんて」


モジモジする千春さん。だから僕の連絡先を知りたがったのか。

それにしても、さっきの大人の姿はどこに行った?


なんてとんでもない。僕にできることなら、何でも力を貸しますよ」


千春さんがあの日・あのタイミングで、あの赤い大きなブラを落とさなかったら

今の関係は絶対ない。そんな人の頼みを無下にはできないよ。


「玲く~ん♪」


向かい合って座っていた千春さんは、僕のそばに駆け寄り

座っている僕にハグをした。胸が顔に当たって苦しい…。


「本当に良い子ね。好きよ~♪」

……息がしにくくてヤバい。


本当に危機一髪のタイミングで、千春さんが離れてくれたので何とかなったよ。



 窓の外を見たら、夕焼け空だ。もうそろそろ帰ろう。


「千春さん。僕、そろそろ帰りますね」


「わかったわ。玄関まで送るね」


玄関に向かう途中にある千夏さんの部屋で、僕はいったん立ち止まった。

あの話を聴いてから、千夏さんずっと考え込んでいたな。


「千夏ちゃんが気になる?」


「はい…」


「妊娠というのは、体だけじゃなくて心にも影響を与えるの。

いざという時は、千夏ちゃんのそばにいて支えてあげてね」


「わかりました」



玄関に着き、靴を履く僕。


「お邪魔しました」


「またね。玲君」


僕は玄関の扉を開け、千夏さんの家を出た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る